2011年10月27日木曜日

福祉サービス第三者評価とは何か

◆「サービス評価とは何か」




「サービス評価とは何か」いう問いに対して、明解に答えることは難しい。というのも、サービス評価といいながら、サービス評価のねらい、評価機関の性格、評価基準、さらには評価方法など、実に様々なものがある。しかも、従来は、高齢者の分野、障害者の分野、児童の分野いずれも、異なるサービス評価の仕組みがつくられていた。

また、第三者が福祉サービスの内容を評価する仕組みは、いわゆる「第三者評価」ばかりではない。第三者が福祉サービスの内容をチェックする仕組みとしてみると、類似の機能をもつものが存在する。

たとえば、行政の監査も、会計および職員配置など最低基準と関わって、福祉サービスの質を確保するものといえる。そこで、監査担当職員は、監査マニュアルに従い、福祉サービス提供のあり方についても問題はないか、点検してきた。

福祉オンブズマンなどのように、第三者が福祉施設を訪問し、サービスの内容や利用者の意見を聴取する仕組みにおいても、第三者が福祉サービスの内容をチェックする機能をもつ。

また、苦情解決の仕組みも、利用者や家族から利用のあり方やサービスの質についての苦情があり、苦情解決の委員会が必要と考えれば、委員が施設を訪問調査し、問題となっているサービスの内容について聞き取りをする。これらも目的は違うが、苦情解決のプロセスにおいて、福祉サービスの内容について第三者がチェックすることになる。

また、利用者の家族や地域の方々が、福祉サービスを選択するための情報を収集する目的で勉強会やサークルを立ち上げ、アンケートなどの方法により、協力してくれる施設から福祉サービスについての必要な情報を収集し、サービス選択に必要な情報を発信する例もみられる。

これに対して、福祉施設を経営する事業者団体においても、サービス評価基準を定め、調査員が会員施設に対し訪問調査し、評価内容を公表するという活動も存在します。多くの場合、これらは事業者による自己点検の一環として位置づけられているが、「第三者」の意義を「当該サービスを提供している当事者以外の者」と考えれば、これも第三者が福祉サービスを評価する取組みとして位置づけることも可能かと思われる。

既にISOの認証を受けている福祉施設もみられる。ISOも、広い視野からみれば、福祉施設が受審するかぎりでは、福祉サービスに対する第三者による評価といえる。さらには、利用者満足度調査も、サービスの質を評価する機能をもつものと位置づけることもできるであろう。

さらにいえば、介護事業に対する情報開示の標準化の取組も、第三者が訪問しサービスの体制などについて事実の確認し、その内容を公表するというものであるから、サービス評価に極めて類似する仕組みとなっている。

こうした状況を踏まえ考えると、「サービス評価」といっても、これに対する認識は、「何をイメージするか」によって、人によってかなりズレがあるのは、当然のことである。また、サービス評価といわれているものでも、サービス評価の実施機関によって、活動の目的や活動内容も様々であった。実際、評価内容も評価結果の取りまとめ方法もかなりの違いがみられた。

国の側では、福祉サービスの「第三者評価」について、「社会福祉法人等の提供するサービスの質を事業者及び利用者以外の公正・中立な第三者機関が専門的かつ客観的な立場から行った評価」であると定義した。その上で、「第三者評価」についてのガイドラインを公表し、必ず行うべき評価基準と評価機関のあり方を定め、都道府県レベルで、評価機関を認証する仕組みの設置を定めた。第三者評価に対する信頼性を確保するためには、評価機関の独自性を認めつつも、やはり基本となる枠組みが必要と考えたからである。

ここでは、福祉サービスの「第三者評価」とは、あくまで「国のガイドラインの定める枠組みのなかで行われる第三者機関による福祉サービスの評価」をいう。したがって、都道府県レベルの認証を受けないで行う「第三者評価」以外のサービス評価も存在する。たとえば、既に先行してサービス評価を行ってきた組織などが、評価体制や評価基準を堅持しようとする場合がありえよう。これらについては、「サービス評価」に違いはありませんが、国のガイドラインに適合しないわけであるから、国がガイドラインとして定めた「第三者評価」には含まれないという整理ができるかと思われる。もちろん、福祉施設関係者は、「第三者評価」以外のサービス評価を受けてはならないというものではない。ただ、施設が受審しても措置費の弾力化という措置に与れないにすぎない。



◆「サービス評価事業の現状 大阪府下を中心に」

以上のことからもわかるように、サービス評価事業の現状は、極めて多様である。各都道府県のレベルでみても、いまだ推進組織が立ち上がっていないところも存在する。福祉施設関係者の皆さんのなかからも「私どもの県では、正式な評価機関が立ちあがっていないので、受審できません」という意見も聞かれる。こうした都道府県においては、サービス評価に対しても消極的な姿勢を見せる事業者が少なくない。どうやら「受けなくともよいのなら、受けたくない」というのが本音のようである。

さて、先行して積極的にサービス評価の体制づくりに取り組んできた都道府県もある。たとえば、東京都などがあげられるが、東京都の取組については、既に月刊福祉の特集で取り上げているので、ここでは大阪府におけるサービス評価事業の状況を紹介したい。

大阪府では、平成十二年七月から「福祉サービスの第三者評価に関する調査検討会」を設置し、サービス評価の実施体制の確立に取り組んできた。平成十四年度には、自ら評価基準を策定し、評価調査者の養成研修も実施した。そして、大阪府下の福祉施設の幾つかは、こうしたサービス評価を受けていた。

ところが、国が平成十六年に「福祉サービス第三者評価事業に関する指針について」(通知)が公表されたことから、先行してサービス評価事業の確立にとりくんできた自治体においては、サービス評価事業の推進にブレーキがかかってしまった。ガイドラインにもとづき、評価機関を認証する仕組みの構築や評価基準の見直しが必要になったからである。それに伴って、評価調査者の養成もやり直さなければならなくなった。

大阪府では、平成十七年度になってようやく実施体制が整った。すなわち、国のガイドラインにもとづき推進組織を設置し、評価機関の認証を行ったところである。認証された評価機関は、平成十七年度六月現在、高齢者分野に対する評価機関として、二十二法人におよぶ。新基準による「第三者評価」事業の本格実施、すなわち福祉施設が認証された評価機関によるサービス評価を受審し、その評価結果が公表されるのは、これからという状況である。なお、既に幾つかの福祉施設が受審を申し込んでいる評価機関もあり、今年度中にも評価が行われる見込みである。

認証を受けた二十二の評価機関は、高齢者に対する評価基準が先行して策定された関係から、高齢者分野の評価機関である。その内訳は、NPO法人が十三団体、株式会社および有限会社が七団体、社会福祉法人(社会福祉協議会)が一団体、社団法人が一団体、という状況となっている。高齢者の分野では、予想されるところはおよそ出揃った状況である。

さらに、障害者および児童福祉分野については、十月に行われる第二回の認証申請において、新規認証申請を受付ける。また、既に認証を受けている機関は、評価実施分野の変更(追加)の届出をすればよいことになっている。介護と並んで大きなマーケットになると思われる保育の分野において、どのような評価機関が認証の申請をしてくるのか、関心がもたれるところである。

既に認証されている高齢者分野の評価機関についてみると、評価機関の性格は幾つかのグループに、分けられる。社会福祉法人である大阪府社会福祉協議会をはじめ、NPOなど非営利法人、そして株式会社および有限会社である。

大阪府社会福祉協議会は、高齢者分野に限らず、他の分野についても、そして府下全域を対象として「第三者評価」を行うのでしょう。これに対して、NPOなど非営利法人については、組織の性格から、高齢者の分野に限定し、地域密着で「第三者評価」事業を展開すると思われるものも存在する。NPOなど非営利法人の性格も、これまでの組織の活動内容からみると、「まちづくり」「高齢者の暮らし」「生きがいづくり」の分野で活動してきた組織、さらには当事者運動や人権運動に取り組む組織まで様々である。

さらに、株式会社および有限会社による評価機関のなかには、大阪府以外の都道府県からの新たに参入してきたものが幾つか存在する。総合コンサルティングを手がけてきたもの、会計コンサルティングを行ってきた会社、また官庁シンクタンクとして、主として行政計画の分野で実績があるものも認証を受けている。


◆「第三者評価の活用をめぐって」


介護事業を行う事業者において悩ましい問題は、老健局が義務化する方針を掲げている「情報公開の標準化」の取組との兼ね合いであろう。特養を経営する社会福祉法人関係者に少し話を伺うと、第三者評価の受審については、もう少し様子を見たいというのが本音のようである。事業者としてみれば、「受けなければならないもの」を優先せざるをえないと考えるのは当たり前のことである。

「第三者評価」は、「受けなければならないもの」ではない。最低基準をクリアしておけばよいという事業者もいるであろう。これに対して、サービスの質について利用者・家族・地域から信頼されたいという事業者が、差別化戦略として、「第三者評価」を受けたいと考えるのであろう。

さて、第三者評価を活用するねらいには、対外的には、信頼の確保があげられる。それに対して、対内的には、人材育成が期待できる。なかでも、受審までの準備で中心的な役割を担う職員には、職員の協力を取り付けるためには、かなりのリーダーシップが必要になる。また、受審までの取り組みにより多くの職員が参加し、点検や改善に関わることで、職員は現在福祉サービスに求められている「時代標準」に改めて気づくことになることも、期待される効果のひとつといえる。

こうしてみると、「第三者評価」の受審は、職員全員を対象に、あらためて、法人の経営理念を浸透させ、サービスの質を継続的に改善する取組を徹底する格好のチャンスとなろう。監査を受けるのと同じ意識で、事務長クラスが書類上の準備をして、「とりあえず受審してみた」というのでは、職員において評価結果について当事者意識が醸成されない。したがって、評価を受けた後における継続的なサービス改善の取組は、あまり期待できないと考える。

措置費の弾力化の恩恵に与りたくて、「第三者評価」を受けるというのも、受審の動機としてわからなくはないが、「第三者評価」本来の目的からみると、本末転倒しているように思われる。措置費の弾力化というのは、あくまで「おまけ」のご褒美にすぎない。これを受審の目的にすると、本来の継続的なサービス改善の取組のねらいがかすんでしまう。

サービスの質を継続的に改善する取組としてみた場合には、受審までのプロセス、および受審後のプロセスが大切である。評価を受けておけばよいというのでは、監査とあまり変わらない。

なお、職員の意識を変えるツールとしてみた場合には、「ほとんど準備なしに、日ごろの実態をみてもらい、専門的な第三者から評価を受ける」という手法は、ショック療法として有効かもしれない。「できているつもりであったが、cをつけられた。次は何とか名誉挽回したい」と考えてくれたらしめたものである。このように、受審後にポイントを置いて、評価結果に対し、職員総出によるサービスの底上げに取り掛かるというシナリオである。一年間継続的に体制を見直して、あらためて再受審するというのも、改善効果が期待できる手法といえる。

さて、こうした利用目的からみると、少なくとも「なぜ、bなのか」「なぜ、cなのか」という評価結果の根拠を、評価結果と共に記述してくれる評価機関を選びたいものである。それができる評価機関は、専門性が高い評価調査者を養成できている証明でもある。受審した施設の職員にしても、これをみて改善に取り組むことができるから、比較的受審後の改善意欲は上がるものと考えられる。

最後に、第三者評価を活用する事業者の立場からいうと、どの評価機関を選んだらよいのか、悩ましい問題である。これについては、福祉専門職による公正・中立的な評価を求めているのか、経営コンサルティング機能をも期待しているのか、あるいは「市民感覚を大切にしたい」とか「利用者の厳しい評価」に耐えうる組織づくりを目的としているのかによっても、違ってくる。その意味では、都道府県レベルの推進団体において、評価機関の少し詳しいプロフィール、評価の傾向などが、事前に公表されることが望ましいように思われる。もっとも、一番大切な調査評価者の質については、受審した施設などから、口コミ情報を集めるしかなさそうである。

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