2008年12月17日水曜日

公立保育所の役割

全社協の講演において、公立保育所の役割について考える機会が与えられました。

以下の内容は、報告した内容を要約したものです。 こうした役割が担えない公立保育所は、残念ながら公としての役割を終えていると思います。

公立の保育所の保育士とお会いすると、モチベーションと専門性にかなり格差があると実感しています。

自治体の職員方も、同じような思いでいるのではないでしょうか。

まずは、行政組織のなかで、公立保育所の応援団をつくることが大切です。

保育士が発想を転換し、新しい役割に向かって前向きになれるかどうかが問われているものと思われます。


「保育所における質の向上のためのアクションプログラム」の具体化に向けた公立保育所の役割

 現在、公立保育所は、市町村の保育行政の最前線として、行政の保育担当課と一体的に保育の実践をはかるとともに、保育の質の向上に向けた取り組みへの期待が高まっています。一方、一般財源化の影響や民営化、統廃合の動きの中で、地域に求められる保育・子育てニーズに量と質の参酌をもって計画的に整備していくことが求められます。
 また、保育所保育指針の告示とともに、厚生労働省から「保育所における質の向上のためのアクションプログラム」が示されました(平成20年3月28日)。
 これは、保育所における保育の質を高める観点から、国や地方公共団体(都道府県・市町村)が取り組む施策に関するアクションプログラムですが、市町村においては、地域における関係機関等との連携や人材活用、特に発達支援を要する子どもの保育の充実、業務の効率化等の措置が求められています。
 変革期を迎える保育施策の動きや公立保育所をめぐる現状や課題をふまえながら、子どもの育ちを主体とした保育の質の向上、そして「アクションプログラム」の具体化に向けた公立保育所の使命と役割について理解を深めるとともに、市町村が策定する次世代育成支援行動計画をいかに具体化していくかについて考えてみたいと思います。
*本稿は、平成20年9月22日~23日に開催された「平成20年度公立保育所トップセミナー」(会場:東京・全社協・灘尾ホール)での講義をもとに、加筆・修正しました。


講義
「保育所における質の向上のためのアクションプログラム」の具体化に向けた公立保育所の役割

1 公立保育所をとりまく環境の変化

(1) はじめに
 地方分権、規制改革、行財政改革が急速に進んでこの8年、保育所をとりまく環境は大きく変わってきました。改革の最終目的は、認定こども園、幼稚園、認可保育所、さらに地域子育て支援をすべて取り込んだ「保育制度改革」です。そして、この制度改革の中の1つとして、「保育所における質の向上のためのアクションプログラム」(以下、「アクションプログラム」)が出てきました。本日は、アクションプログラムと公立保育所の役割について考えてみたいと思います。

(2) 子どもを取り巻く状況
 保育所保育指針の改定、「新待機児童ゼロ作戦」の中でも繰り返し言われてきておりますが、都市部においては、新たに保育所を整備してきたにもかかわらず、待機児童がゼロにならないとう問題があります(図参照)。構造的に保育の潜在需要が存在し、供給量を増やせば需要がさらに湧いて出てくるという状況があるわけです。待機児童解消のために、老朽化した公立保育所を民営化し、新しい民間保育所を整備するとともに、新しい保育園の定員を増やすという手法をとる自治体が見受けられます。
 一方で、子どもの生活リズムや食生活の乱れ、育児不安を抱える家庭の増加、虐待児童の増加など、家庭における養育機能の低下とともに、地域における子育て力・教育力が低下していることは、みなさんが実感されていることと思います。
 こうした子育てをめぐる問題状況に対して、「公」として保育の専門スタッフを投入する必要があり、そのためにも公立保育所を存続させていく必要があると考えています。さらに、公立保育所の保育士さんたちがコミュニティ・ワークという手法を身につけることにより、地域の社会資源をつなぎ、まとめ、掘り起こしたりすることで、少ない予算でも動くことができるネットワークがつくれ、地域の子育て力や教育力の低下に歯止めをかけることができるのではないかと思っています。
 子どもを取り巻く状況は深刻です。しかし、だからこそ、公立保育所の特にベテラン保育士さんたちの専門性が必要とされている時代ではないでしょうか。
(3) 深化・拡大する保育所に期待される役割
 今、保育所に期待される役割が進化・拡大してきておりますが、民間保育所に対応・協力を求めるには限界があります。認可保育所が期待されている新しい役割に対応していくためには、公立保育所が率先して対応し、ネットワークの中で公立保育所の実践ノウハウをすべての認可保育所に伝えていくという役割が求められているのではないでしょうか。
 たとえば、質の高い養護や教育の機能をどのように形成するのか、小学校との接続をどのように確立するのかという課題に対して、公立保育所は、自治体組織のなかでの合意形成さえ整えば、同じ公立である公立幼稚園や公立小学校をうまくつながっていけるものと考えます。こうした体制整備についても、公の役割、公立保育所のリーダーシップは非常に期待されるところです。また、子どもの保育とともに保護者に対する支援には、やはりベテラン保育士さんの経験、専門性、そして所長・園長のみなさんのリーダーシップが求められているのです。

(4) 次世代育成支援と保育行政
 児童福祉法に基づく施策では、①保育に欠ける子どもたちと、②障害、あるいは虐待を受けた要保護児童への対策の2つが柱となっていました。保育については、働く親に代わって保育を行う機能が中心で、公立保育所の役割もここに集中・特化されていました。しかし現在は、地域の家庭の養育能力の低下とともに、すべての子どもたちの育成支援と、すべての子育て家庭への支援が必要となっており、ここを支える経験豊富なマンパワーが専門性として求められていると思います。
 そこで、保育行政の中で公立保育所は、次世代を担う子どもたちの育成支援の公的な拠点として重要な役割を担うべきでしょう。育児支援の拠点としては、民間保育所、NPOの施設、ボランティア、地域の人たちのネットワークもありますが、公が関与・実践できるネットワークの拠点も必要です。したがって、保育に欠ける子どもたちに質の高い保育を提供するために公立保育所が必要だという視点から、次世代を担う子どもたちの育成支援の公的な拠点として公立保育所の機能を見直していく時期にきているように思います。
 地方分権、規制改革、行財政改革の中で、公立保育所が置かれている状況は相変わらず厳しいものがあります。しかし、世の中が保育所に求めている役割を考えると、それらに幅広く対応できる潜在的能力を持っているところは公立保育所です。地域におけるすべての子どもたちの育ちや保護者の子育てを支援することに取り組むことで、現在直面しているピンチがチャンスに変わるものと思います。ただ、このチャンスに公立保育所が的確に対応できるのかと考えた場合、いくつか課題があるようです。

(5) 全保協「平成19度・保育所の実態調査」から
① 公立保育所の園舎の老朽化…築31 年以上が約4割
 かなりの公立保育所が老朽化しています。自治体とすれば、おそらく建て替えの資金が難しいので、自治体組織の中で公立保育所の機能をどのように考えるのかという合意形成を図り、中長期的な展望をしっかりと持っておかないと、単純に老朽化したから公立保育所を新たに建て替えましょうというわけにはいかないと思います。行政組織のなかでの一般論としては、建て替えるにしても民間に担ってもらうほうが経費削減につながると考えることでしょう。

② 公立保育所は民間保育所と比較し、正規職員の割合が少なく、非正規の割合が多い/2割の公立保育所が、60% 以上が非正規と回答/主任保育士も約4割がクラスを担任
 行財政改革の影響で、全国的に正規職員の割合が非常に少なくなっているということに、改めて驚きました。日常の保育、地域の子育て支援、幼稚園・小学校と連携した新しい養護と教育のあり方、発達支援を要する子どもへの対応などに対して、「ノウハウを蓄積・継承して」と言われても、正規職員が所内で4割しかいません。しかも、半数近くの保育士があと5年で退職という状況であったりすると、公立保育所として力を合わせ新たな局面を切り開くというのも難しいかもしれません。
 また、主任保育士が「フリー」でない公立保育所が多いのですが、これでは地域に出向いての子育て支援も困難です。児童ソーシャルワークなどについて、保育士がいかに専門性を磨こうと思っても、身につける機会と地域に出て活躍する余裕もない、機会が与えられていないのでは、期待される役割と現実ではギャップを感じてしまうものと思われます。

③ 特別保育事業の実施状況

 特別保育事業の実施状況をみると、以下のとおり、公民による役割分担が明確になっています。

1) 公立保育所は、民間保育所と比較し、障害児保育に取り組む数が多い
2) 民間保育所は、乳児、一時保育、休日保育、夜間保育、地域子育て支援センター(育児相談)が多い
3) 次世代育成支援対策交付金(ソフト交付金)は、延長保育、世代間交流、異年齢児交流など、民間保育所の割合が高い

 こうした状況の中で、特別保育事業以外の地域ニーズに対し、公立保育所がどう対応していくのかということが重要な課題のように思われます。「行政の主幹課が何も言ってこないから、今までどおり保育に欠ける子どもたちに質の高い保育をしています」では、公立保育所の機能が進化・拡大していきません。早急に、見直してみる必要があるのではないでしょうか。

*詳細は、本誌2008年5月号特集「『保育所の実態調査』から見えるもの」をご参照ください。

2 「アクションプログラム」の概要
(1) アクションプログラムの背景
 アクションプログラムが作成された背景についてみていくことにしましょう。一連の保育制度改革が軸になって、保育所保育指針が改定され、さらにはアクションプログラムの中で保育の質の向上が求められるようになっていることが理解していただけるかと思います。以下では、アクションプログラムが策定されるまでのおおまかな経緯について述べておきたいと思います。

① 2007年12月「子どもと家庭を応援する日本」重点戦略
【主要な内容】
 *仕事と生活の調和の推進
 *包括的な次世代育成支援の枠組みの構築
 *利用者の視点に立った点検・評価とその反映
 *包括的な次世代育成支援の枠組み
 *20年度において先行して実施すべき課題
  ・保育サービスの量的な拡大を可能とする提供手段の多様化→家庭的保育の制度化
  ・一時預かり事業、地域子育て支援事業の法的な位置づけを明確化
  ・次世代育成支援行動計画の取り組み推進のための制度的な対応
  ・社会的養護の体制充実
② 2008年6月「社会保障国民会議」中間報告
③ 2008年6月「経済財政改革の基本方針2008」
 *税制の抜本的な改革と併せ、保育サービスの提供の仕組みを含む包括的な次世代育成支援の枠組みを構築する
 *消費税の引き上げを見越して、年金や医療、少子化対策の財源にという思惑
 *21 年度予算概算要求も、少子化対策関係予算…1兆6,837 億円、対前年度比7.1% 増

 この①~③で共通して語っている少子化対策では、「未来への投資」という言葉をキーワードにし、未来の社会づくりに投資するために、もっと少子化対策に、子育てを支える社会的基盤の整備(特に保育サービス)に財源を注ぎ込むこと、そして、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)すること、この二つの課題を軸に、総合的な少子化対策を推進しようと言っています。

④ 2008年3月「保育所保育指針改定」
 【基本的な考え方】
 *保育所の役割を明確化
 *保育の内容の改善
 *保護者支援
 *保育の質を高める仕組み
 
保育指針が以上のような重要な考え方にもとづいて改定され、告示としての形式がとられたために保育所の最低基準としての意味合いが強まりました。つまり、最低基準に関わる部分については、指導監査の対象になりました。来年四月以降は、「しなければならない」「配慮する」「支援する」と記述してある部分について、指導監査等において「どうやっているのか」と尋ねられた際には、公立保育所も「私たちは、この取り組みについてはこうやっている。この仕組みはできている」という説明ができないといけないのです。
 公立保育所におかれましても、来年四月までに少なくともこうした部分をクリアして、保育の質の底上げに取り組んでいただく必要があるのです。

⑤ 新待機児童ゼロ作戦

新待機児童ゼロ作戦は、10年後の目標と、それに対して当面の取り組みに大別されています。
  *10年後の目標
   ・保育サービスの利用児童数100万人増
   ・放課後児童クラブの登録児童数145万人増
  *当面の取り組み
   ・保育サービスの量的拡充と保育の提供手段の多様化
   ・放課後児童健全育成事業の推進
   ・保育サービス等の計画的整備
   ・地域や職場の実情に応じた取り組みの推進
   ・質の向上等に資する取り組みの推進

さて、新待機児童ゼロ作戦における「質の向上等に資する取り組み」についてみますと、次の四つが取り組み課題としてあげられています。
    ⅰ保育所保育指針等を踏まえた保育の質の向上
    ⅱ保育士の専門性向上と質の高い人材の安定的確保
    ⅲ質の高い放課後児童健全育成事業の推進
    ⅳ多子世帯の配慮

⑥ 保育所における質の向上のための取り組み
 次世代育成支援の社会コストが未来の投資として位置づけられたのはいいのですが、新たな総合的な仕組みづくりについても議論されるようになりました。こうしたなかで、保育所利用における直接契約の導入といった認可保育所制度の根幹にかかわる大きな問題が浮かび上がってきたことはご存じのとおりであると思います。こうした社会づくりを進めるための基盤整備の課題に対応するため「新待機児童ゼロ作戦」が必要と考えられたわけです。この内容は、小学校就学後までを見据え、地域における保育サービス等の計画的整備を行うとともに、次世代育成支援に対応した計画をつくり、子どもの健やかな育成等のためのサービスの質の確保を取り上げています。量、質ともに基盤整備に取りかかろうというわけです。
 この「新待機児童ゼロ作戦」の当面の取り組みの5番目の柱「質の向上等に資する取り組みの推進」に基づいて、「アクションプログラム」が出てきたわけです。アクションプログラムの概要について説明します。

(2) 「アクションプログラム」の概要
■趣旨
 ・保育の質の向上のための保育所における取り組みを支援する
■実施期間
 ・平成20 年~24 年まで
 ・市町村が定める実施期間は、次世代育成支援行動計画との関係を踏まえて設定
■具体的施策
 ① 保育実践の改善・向上
   自己評価、保育実践の改善・向上に関する調査研究の推進、情報技術活用による業務の効率化など
 ② 子どもの健康及び安全の確保
   保健・衛生対応の明確化、看護職等の専門的職員の確保の推進、嘱託医の役割の明確化、特別支援を要する子どもの保育の充実など
 ③ 保育士等の資質・専門性の向上
   保育所内外の研修の充実、施設長の役割強化、保育士資格・養成の在り方の見直し
 ④ 保育を支える基盤の強化
   評価の充実、保育の質に関する研究成果等のデーターベース化及び活用、専門的な人材や地域の多様な人材の活用、保育環境の改善・充実のための財源確保
 これらの詳細を見ていくと、以下のように「国」と「都道府県及び市町村」という主語の部分があります。

◆国の役割
 自己評価のガイドライン作成/保健・衛生に関するガイドラインの作成/看護師等の専門的職員の確保の推進・嘱託医の業務の明確化/保育所の研修体系の作成/保育士資格・養成のあり方の見直し、検討/施設長の資格要件の検討

◆地方自治体の役割
 保育実践上の課題に関する調査研究の支援活用/情報技術の活用による業務の効率化/保育所の関係機関との積極的な連携・協力/特別の支援を要する子どもの保育の充実/保育所の研修内容の充実、外部講師の活用など研修体制の整備/専門的な人材や地域の多様な人材の活用

 保育の質の向上に向けて、保育の実施主体である地方自治体の役割は重要です。このたび示されたアクションプログラムを踏まえ、各地域の実情等を考慮した保育所における質の向上のためのアクションプログラムを策定することが望ましいとされています。わが自治体は、保育の質の向上に向けてどのように取り組むつもりであるのかを住民に対し明らかにするためにも、「アクションプログラム」を作成し、計画的に対策を積み重ねることが大切です。
 また、保育士や施設長の資格問題などは、全国一律の問題ですが、ガイドラインができた場合には、ガイドラインや事例集を参考にして、各市町村においても保育所を運営する上で対応が必要となることでしょう。つまり、国の役割は、市町村の業務にも関わることになると思います。
 その他に、保育実践上の課題に関する調査研究の支援、関係機関との積極的な連携・協力、特別な支援を要する子どもの保育の充実、研修内容の充実、多様な人材の活用等が「アクションプログラム」では重要になってきます。いずれも、地方自治体のやる気と力量がとわる課題であると考えます。地方自治体がこうした課題に対応するためには、公立保育所の協力と実践が大切になると思います。

3 「アクションプログラム」の展開に向けた保育所の役割

(1) 「アクションプログラム」の作成に向けて
 改定保育指針は、保育内容でいえば「しなければならない」、また「努めるものとする」といった表現の部分があります。公立保育所は、指針で示された必要最低限の保育実践を行うのでは、公立保育所としての存在意義がありません。公正・公平な保育実践の中で培ってきた創意工夫、質の高い保育の実践に向けてこうした工夫をしている、こういうノウハウがあると、保育の質についても積極的に行政組織の内外に情報発信する必要があるだろうと思います。アクションプログラムのなかで、公立保育のスタンダードを明らかにしていただきたいと思います。
 なかでも、改定保育指針が求めるレベル(最低基準的な意味合いのもの、望ましいレベル)をどのように保育所の中で実践していくかというのは、公民共通の課題の1つです。各自治体の保育課は、公立保育所とともに、最低水準を上回る公的保育の実践モデルを具体的に検証していただきたいと思っています。つまり、「アクションプログラム」は、どのように作成するかよりは、いかに自治体ごとに設置されている認可保育所の全体的な水準を、改定保育指針における「望ましいレベル」に引き上げるかということが一番大切なテーマなのです。自治体組織のなかで、アクションプログラムの作成・推進において、公立保育所がどのような貢献ができるのか検討いただきたいと思います。
 例えば、特別支援を要する子どもの保育の充実というテーマについて、自治体はどのように取り組んだらよいのでしょうか。まずは、今の次世代育成支援行動計画の中での取り組みと、その現状に対する評価を行うことでしょう。例えば、発達障害がある子どもたちに対する対応が混乱したケース、対応できなくて困っている保育士も多いなどの問題を抱えているはずです。このように発見された課題に対してどのような体制と方法が必要となるのかを検討し、この課題解決のために市町村では何をするのかということを「アクションプログラム」に書き込む必要があります。いずれのプロセスにおいても、公立保育所の関わりが大切であると思います。アクションプログラム作成の担当者は、行政組織のなかで、こうした実践フィールドをもつ意味、公立保育所を存続させるべき意義を実感するはずです。
こうして考えてみると、「アクションプログラム」は、行政保育担当課サイドのみでつくるのではなく、公立保育所サイドでも課題を整理し、改めて保育所に求められている役割、あるいは改定保育指針で述べられた内容等を検討しながら、行政組織のなかで、公立保育所が民間保育園に対し手本を見せることのレベルとは、どのような実践内容なのかということをぜひ検証し、公立保育所の所長とともに議論していただきたいものです。
 また、特別な支援を要する子どもの保育の充実のためには、実際の保育実践上の課題に関する調査・研究が必要です。公立保育所こそ、豊富な実践事例を基づく、保育についての専門機関なのです。計画の企画立案に際しては、行政組織においても、公立保育所という保育についてのシンクタンクの機能が既に組織のなかにあることを認知していただきたいと思います。例えば、障害をもった子どもたちに対する保育の充実のための課題は何か、この課題に対して取り組むにはどうしたらいいのかという実践報告など、様々な調査・研究を既に積み上げてこられたものと思います。

(2) 「アクションプログラム」の展開の中で
 また、公立保育所にはこういう機能が必要なのだと考えた場合、人材育成のあり方も見直す必要があるでしょう。
 公立保育所のみなさんには、保育の根拠を示せる内容を蓄積して、それを分析できるノウハウを身につけていただきたいと思います。それが保育の専門性(保育を科学し、根拠のある保育を説明できること)だと考えています。
 また、養護と教育の一体的な実施や小学校との連携についても、公立保育所においてモデル事業を実践し、全体にフィード・バックする必要があります。
 自治体の保育課は、公立保育所における実践を通じて、保育の質を上げるためにも、根拠のある保育の方法を民間園に対して提示してほしいと考えます。あるいは、公立幼稚園・小学校と連携し、養護と教育の一体的な実施の内容について検討・協議する体制をつくり、民間保育園をも呼び込んで、ともに保育の質を高める議論をするなども、「アクションプログラム」の策定を1つのきっかけに、仕掛けができるのではないでしょうか。
保育の質についても、厚生労働省が全国一律に決めるという手法から、ローカル・ガバナンスに委ねられる時代となっています。自治体ごとに保育行政のレベルを高める努力が求められているわけですが、公立保育所の役割がかかせません。アクションプログラムの作成をきっかけにし、自治体職員にこうした理解をもってもらうために、公立保育所にも積極的な働きかけが必要です。
また、どのような「アクションプログラム」を策定するかも大切ですが、それをいかに実行・展開し保育の質を引き上げるかが問われます。いずれの自治体においても、行政評価として、既に様々な事業について、PDCA(プラン→ドゥ→チェック→アクション)で評価・見直しが行われているものと思います。アクションプログラムにおいても、ドゥ(実践し)→チェック(質を引き上げることができたか検証する)が重視されるべきです。
 プログラムは行政の主幹課で作成できるでしょうが、特に保育の現場で求められている事業内容については、D→Cにおける質の向上についての検証についても、公立保育所の役割に期待されるところです。実践をしてみてどこに問題があったのかということを知ることができて、どのようにしたら改善できるかを現場でどう協議ができるか、そして、こうした公立保育所でのノウハウを管内の保育所全体で共有することが、自治体の中で保育の質を高めていく1つの取り組みではないだろうかと考えています。

4 保育所の質の向上に向けた具体的な取り組みのポイント

(1) あらためて問われる公立保育所の存在理由、ミッションとは
 公立保育所の存在理由、ミッション(使命)であった「自治体自らが、民間に比較して質の高い公的な保育を保育に欠ける子どもたちに提供する」は、今は揺らいでおり、それに代わる新しいミッションが求められています。
 例えば、公立保育所の実践が民間保育所に対する手本になるような仕組みが必要だとしたら、社会が求める保育所の役割についても、公的な立場から先駆的に取り組むというところに1つのミッションがあるだろうと思います。
 そのためには、保育実践のノウハウや効果についても、科学的根拠を示して公開し、民間保育所とともに学ぶ仕組みを行政がつくる。あるいは、民間保育所が公立の実践に学ぶ場を連携の仕組みの中でつくる。そうした取り組みにより、行政管内でのすべての保育のレベルが上がっていくのです。アクションプログラムは、こうした取り組みを導入するきっかけになるのではないでしょうか。
 また、自治体における複数の公立保育所が存在すること(その組織力)は、非常に大きな利点となります。例えば、拠点ごとに保育内容、子どもの健康と安全の体制整備、保護者支援、自己評価等の保育の質を高める仕組みと体制づくりなどテーマを分担して実践を行い、その後情報交換することでその効果、ノウハウを確認し、それを管内の公立・民間の保育所にフィード・バックするなどということもできるからです。とかく行政サービスは画一的なものとなりがちですが、公立保育所を様々な先駆的な取り組みを試験的に実践する場として位置づけることにより、スケールの意義が発揮できるものと思われます。

(2) 市町村の役割
 市町村の保育主幹課で意識して取り組んでいただきたいことが幾つかあります。アクションプログラムを作成し、保育の質を高めることはもちろんですが、公立保育所の機能についても見直していただきたいと思います。認可保育所が担うべき新しい役割についても、公立保育所において先駆的に実践してみる。地域のすべての子どもたちが健やかに育つ環境づくりにおいても、公立保育所の役割が考えられてよいと思うのです。そのためには、次のことが大切と考えています。

・公立保育所に今求められている課題を明確にして、権限を与える。
・公立保育所にそれに取り組む時間的余裕を与える。
・公立保育所が主導する地域のネットワークづくりを支援する。
・公立保育所の保育士さんたちとコミュニケーションを密にとって励ます。
・こうした公立保育所の役割と活動の成果を市民に知らせる。

(3) 「アクションプログラム」を後期次世代育成支援行動計画の作成につなげる 

アクションプログラムの成果は、後期の次世代育成支援行動計画の内容として継承されるべきものが多いのです。たとえば、「アクションプログラム」による「保育所の関係機関との積極的な連携・協力」「専門的な人材や地域の多様な人材の活用」が課題としてあげられています。アクションプログラムをきっかけに、公立保育所を拠点とし、こうした連携の仕組みをつくり、地域の様々な人材が子育ちに関わる場をつくる(地域づくり)といったことに成功すれば、公立保育所の実績や活動内容が、後期次世代育成支援行動計画の作成にも反映されるものと考えています。
全保協では「公立保育所アクションプラン」において、「次世代育成支援の中心的な役割を果たす公立保育所になる」としたスローガンをかかげました。皆さんの自治体が作成した次世代育成支援行動計画の内容について、公立保育所の保育士さんが知らないことが多いようです。行動計画では、地域の子どもたちの育ちを総合的に支援するため様々な課題と事業内容が明らかにされています。こうした事業について、公立保育所が関与していれば、もっと効果が上がるであろうと思われるものが少なくありません。行政組織になかでも地域に対しても、「こうした取り組みが行政としてできないか、地域のなかで展開できないか」など、公立保育所の提言機能を発揮していただきたい。提言された内容については、もちろん公立保育所が一緒に実践することが前提です。

5 公立保育所の展望を切り開く
  …ピンチをチャンスに変える工夫を!

 前述したように、今公立保育所が置かれている状況は相変わらずピンチですが、公立保育所のなかで、将来ビジョン、あるべき姿を明確にし、認可保育所に求められる様々な課題を率先して担っていただきたい。それが、公立保育所の存在理由をあらためて行政組織の中で、地域の中で認知される格好のチャンスとなるはずです。
 公立保育所のみなさんには、時代が求める保育所の役割(すべての子どもの育ちの支援)を真剣に考え、率先して質の向上に取り組んでいただきたいと願っています。民間保育所のメリットは創意工夫、柔軟性ですが、公立は公的な姿のスタンダードを実践してみせるということがとても大事です。
 さらに、子育ちのセーフティ・ネットの中核に公立保育所の存在があり、住民からも信頼されるものになっていただきたいと願っています。そして、住民からの信頼ということをキーワードにした場合、皆様の今行っている実践のレベルをきちんと住民の方々に説明すること(アカウンタビリティ[説明責任])が重要だと思います。小さな取り組みでも結構ですから、できるところから地域のなかで求められている課題に取り組むこと。その積み重ねが新しい公立ブランドをつくることにつながると思います。
こうしたピンチをチャンスに変える戦略こそ、公立保育所に必要なことかもしれません。あらためて、「公立保育所アクションプラン」「保育所保育指針」「アクションプログラム」「次世代育成支援行動計画」を読み直してください。公立保育所を存続させるために、何をするべきか、様々なヒントを発見することができるはずです。こうしたことを自らの「公立保育所アクションプラン」として取りまとめ、保育士集団の組織力をかけて実践していくことができれば、公立保育所の存続にとっても意味のあることです。公立保育所にとって新しい道が切り開かれるものと信じています。