2010年1月13日水曜日

次世代育成支援行動計画と公立保育所の役割

「次世代育成支援後期行動計画と公立保育所の役割」

九月に実施されました全社協による「公立保育所トップセミナー」の講演内容です。公立保育所の先生方が熱心に話を聞いておられました。公立保育所のめざすべき方向を皆さんと協議しました。



1.次世代育成支援後期行動計画の背景

(1)次世代育成支援対策推進法

 2005年4月に次世代育成支援対策推進法が施行されました。この法律は、少子化、人口減少、そして家庭及び地域を取り巻く環境の変化を受けて、次の社会を担う世代を育成するために、国を挙げて、地域及び職場における総合的な対策を推進しようというねらいで誕生したものです。
 九十年代には、専業主婦の家庭では2人以上の子どもを持つことが多いものの、共働きの家庭では一人っ子が多く、その結果として出生率が低下したと分析されていました。しかし、次第に専業主婦の家庭でも子どもの数が減り始め、少子高齢化が加速的に進行して人口が減少する社会が現実のものになってきました。こうした背景から、次代を担う子どもたちが健やかに生まれ、育成される環境整備にむけ、総合的かつ抜本的な対策が必要となり、次世代育成支援対策推進法が施行されました。
 次世代育成支援対策推進法は、各自治体に対し具体的な行動計画の策定を求めています。2005年から2009年までの5年間が、既に自治体において策定されている前期行動計画の期間でした。後期行動計画は、2010年から2014年までの5年間について、どのようなアクションを起こしていくのかを明らかにするものです。
また、2009年3月には、企業等での働き方を見直さなければ出生率は上がらないということから、次世代育成支援対策推進法の一部改正があって、一定の労働者を雇用する事業主に対しても、行動計画策定の義務付け、ならびに届け出が求められるようになりました。

2.公立保育所をめぐる今後15年間の動き

(1)地域間競争の時代へ

 次世代育成支援後期行動計画の期間である2010年から2014年までの5年間、さらにそれ以降の10年間で、少子高齢化が進み、その上に人口の減少傾向がより顕著になると思われます。そうなりますと、国レベルで産業構造が変化、地域コミュニティも大きく変容するでしょう。これまでの政治や社会のしくみも維持できなくなるかもしれません。過疎化が急速にすすみ、地域社会の維持が困難となり、これまでの生活や文化が廃れてしまう地域が増えるかもしれません。都市部においても、人口が流出する自治体もでてきましょう。自治体がこうした事態を回避しようと動き、まちづくりについて地域間競争が進む時代がやってくると考えています。
保育や子育て支援は、15年後、2024年に向けて、次代を担う子どもたちや親の支援というだけではなく、次代のまちづくりを考える視点を持つ必要があります。自治体としては、若い世代が「このまちで子どもを生んで、子育てをしたい」と考えて、わがまちを選んでくれるために、何ができるかを考えることが求められます。公立保育所の方にも、こうした視点をぜひ共有していただきたいと思います。
 さて、後期行動計画は、その最初の5年であり、重要なスタートラインですから、それぞれの地域は子育て世帯にとって住みやすいまちかどうか、子育てに優しいまちかどうかという視点で、後期行動計画の内容を具体的に考えていただきたいと思います。私は、保育所をたくさん増やすといったハード面だけでなく、地域の住民の子育てへの関わり方、地域における様々なネットワークづくり、子育ての喜びを分かち合う仕組みなどのソフト面も重要であると考えています。

(2)自治体を取り巻く厳しい財政状況

 前期行動計画の策定前夜の2004年に、三位一体改革の中で公立保育所の運営費が一般財源化されました。しかし、税源移譲といわれるほどには、国から各自治体に財源が返ってきていないという厳しい状況があります。また、平成の大合併で、約3,000あった市町村が現在は、1,772まで合併が進んでいます。しかし、合併が進んでも財政状況のよい自治体はともかく、財政基盤が脆弱な小さな自治体が集まって合併した場合では、合併した後も依然として財政事情が依然として厳しい状況にあります。 
これからの15年間には、公立保育所の建て替えが課題になる自治体が多いと思います。老朽化した保育所の維持管理費が余計にかかります。しかし、公立保育所を建て替えようと思っても、国からの補助が出ないので、一般財源から建て替え費用を確保しなければなりません。自治体としては、公立保育所を建て替えるべきかどうか大いに悩むところだと思います。財政担当者は、担当部局と将来の建て替え費用を見越して公立保育所をどうするのかについて協議することになるでしょう。彼らの立場からすると、厳しい財政事情のなかで公立保育所を建て替えることには、否定的な考えをもつのも、わからないわけではありません。建て替えなければならない自治体の施設は他にもたくさんあるからです。いずれにしても、自治体として、公立保育所をどう残すのかについて最終的な判断をしなければならないデットラインが迫っている状況にあると思われます。
 さらには、公立保育所の保育士の退職ラッシュも予想されます。そうした中で、将来の公立保育所の規模をどうするのか。退職した保育士の後補充をしなければ、当然規模は縮小することになります。保育士の新規採用のあり方も含めて、残すべき公立保育所の数を考えていく必要があります。
したがって、公立保育所を建て替えて、ある程度の規模を残して、その規模に準じた正規職の保育士を自治体に確保してもらうというシナリオを考えるならば、目標達成のために、これからの5年で公立保育所はどのような行動をとらなければならないのか。そうした視点で、後期行動計画での取り組みを考えていただきたいと思います。

3.公共性の視点から見た公立保育所の役割

(1)次世代育成支援行動計画の7つの大項目

 次世代育成支援行動計画では、国が作成したガイドラインにもとづいて、所定の事項についてニーズ調査を実施したうえで、必要なサービス整備の目標量を決定し、行動計画を作成することになっています。サービス整備の目標量を作成するのはそれほど難しいことではありません。ただ、私はこの目標量よりも大切なのは、市町村が総合的・抜本的な次世代育成支援の対策として何を行うのかというソフトの部分だと思っています。
 国からは行動計画に盛り込んでほしい内容を細かに掲げていますが、それを大きく分けると、次の7つの大項目に整理できます。

①地域における子育て支援
②母性並びに乳児及び幼児の健康確保及び増進
③子どもの心身の健やかな成長に資する教育環境の整備
④子育てを支援する生活環境の整備
⑤職業生活と家庭生活との両立の推進
⑥子ども等の安全の確保
⑦要保護児童への対応などきめ細やかな取り組みの推進

(2)行動計画における公立保育所の役割

 7つの大項目にしたがって、公立保育所はどんな役割を果たすのでしょうか。事業の実施にあたって、専門性を持つベテランの保育士の関与が役立つもの、あるいは保育士の関与によってこれまで以上に効果的な事業実施が期待できるものを十分に吟味して、何ができるかを考える必要があります。
 公立保育所は、行政の一つの機関として、保育や子育て支援の分野において事業の公共性を高める役割が求められています。保育事業における公共性とは何でしょうか。公共性とは、民間の市場になじまないもの、つまりサービスの対価を得て事業を行う仕組みになじまないもので、自治体による税の投入が必要だとされている事業が、公共性のある事業だと考えることができると思います。つまり、行政が掲げる様々な事業のうち、民間団体に委ねることが適切でないものであって、行政としても経験豊富な公立の保育士の専門性が必要なものは、事業の公共性の観点から、公立保育所が主体的に行うべきものだということになります。
 また、障害をもった児童や要保護児童などに対するきめ細かな対応も、公立保育所が中心となって行うべきです。こうしたケースは、自治体が責任を持って実施すべきものであり、行政組織における専門職として、保育・子育てに専門性をもつ公務員である公立保育所の保育士が関わることが望まれます。
 このほかにも、公立保育所には、保育所や学校、児童相談所等、他の行政機関などとの連携がとりやすい上に、公立保育所での実践で得たノウハウ、あるいは課題解決の方法を民間保育所とも共有化を図ることができます。また、それを行政の保育施策へとつなげやすいといった特性を備えています。公立保育所には、こうした特性を認識し、自らの地域において子育て支援にむけて何が課題かを把握し、具体的な一歩を踏みだしていただきたいと思います。

 4.行動計画の検証、評価にも公立保育所の声を反映させる

(1)後期行動計画にむけて

 みなさんの市町村では、前期行動計画における公立保育所の位置づけはどうなっていたでしょうか。公立保育所に対し「保育サービスの充実」「保育の質の向上」しか期待されていなかったところでは、後期行動計画のスタートにあたって危機感を持つべきです。この先、公立保育所の役割が行政や地域のなかで評価されない時代が続きますと、公立保育所数の減少、ひいては行政機関として保育に対する関心の低下、そして地域における保育の質の低下へとつながります。
 こうしたことを避けるためにも、公立保育所においては、後期行動計画づくりを担当する主管課とのコミュニケーションをとる努力が必要です。とくに園長、所長は、現場の意見をまとめながら、それを踏まえて「私たちは何ができるか」を主管課と絶えず話し合って、その内容を後期行動計画に反映させる準備をしていただきたいと思います。

(3)PDCAの中で事業評価と改善提案をする

 後期行動計画では、自治体は、自らの施策について、PDCA(Plan Do Check Action)のサイクルを回し、継続して事業を評価、見直していかなければなりません。前期行動計画においては、計画が終わった段階で次の計画をつくるために評価・見直しを行い、その内容を後期計画に反映すればよかったのですが、後期行動計画では実施している間に、ひとつひとつの取り組みにPDCAサイクルを回すことが求められています。こうした作業のなかで、保育士の経験や意見が生かせるものについては、公立保育所から具体的なデータとともに、活動実績にもとづく事業評価と改善提案をしていただきたいと思います。また、主管課におかれましては、こうした公立保育士の評価内容を次世代育成支援行動計画の評価見直しに反映する場を、PDCAの仕組みの中でつくっていただきたいと思います。こうした評価の積み重ねのなかで、公立保育所の役割について、自治体組織における共通理解がつくられていくものと考えています。
 そのためには、現場を巻き込んでリーダーシップをとっていく所長会・園長会などの組織の役割が大切です。現場の保育士の意見を主管課につなぎ、所長会が主幹課と協力・連携して事業の見直しに取り組んでいただきたいと思います。

(3)後期行動計画の中で公立保育所の役割評価の明記を

 現在、自治体では、前期行動計画の検証及び評価を終えたころではないかと思います。その中で、公立保育所による積極的な関与が望まれるものは何かを考えることが大事です。園長会、所長会などで、現在の事業のいくつかをピックアップして、現場の保育士の意見を吸い上げながら検証、評価していただきたいと思います。現場を反映したプロとしての公立保育所の評価を生かせば、後期行動計画の内容は充実します。
 国のガイドラインでは、次世代育成支援推進行動計画に、公立保育所の役割や位置づけを明記するようには求めていません。しかし、できれば肯定的な役割評価、さらには他の事業にも積極的な参画ができるように、後期行動計画の中で明記していただきたいと思います。
公立保育所はお金がかかるもので、近い将来建て替えも必要になる。だから、徐々になくなっていってもやむをえない。そうした思惑が自治体にあるとすれば、それを払しょくする努力をしていかなければなりません。後期計画の作成は、自治体における公立保育所の役割を再構築する格好のチャンスです。

5.公立保育所としての実績をつくる

(1)後期行動計画作成のプロセス

 後期行動計画の作成にあたって、本来望ましいのは、昨年あたりから後期行動計画における公立保育所のあり方を計画の全体像の中で検討して、それを反映させることです。しかし、現在の計画作成のスケジュールでは、こうしたことも既に難しいかもしれません。というのも、多くの自治体は、すでに前期行動計画の評価を行い、基本的な枠組みの内容を決め、目標水準などの協議が委員会において行われていると思われるからです。今後のスケジュールからすると、12月ぐらいには後期行動計画の草案が示されて、住民からのパブリックコメントを求めて必要な修正を行ったうえで、遅くても来年3月前半には庁内の承認をとりつける段取りで動いているものと思われます。
 後期行動計画作成のプロセスにおいて、とくに主管課が公立保育所の役割を「保育サービスの充実」以外に考えていない自治体では、これから公立保育所のみなさんと一緒に公立保育所の役割を検討して後期計画に反映させることは、スケジュール的には厳しいのが現状です。

(2)公立保育所アクションプランの作成を

 しかし、皆さん「もう遅いのか」とあきらめないでいただきたいと思います。先にのべたPDCAのサイクルをつうじて、公立保育所としての実績を積みあげ、それを後期行動計画の見直しに関わることは可能です。
 これと関連して、公立保育所のみなさんには、後期行動計画と整合性を持たせたうえで、皆さま方の市町村の所長会・園長会などで独自の「公立保育所アクションプログラム」を作成していただきたいと思います。たとえば、「保育の質の向上についてのプロジェクト」あるいは「こんにちは赤ちゃん事業」のその後のフォロー、食育推進、虐待防止、発達障害児の療育、地域の要保護児童への対応、家庭的保育人材育成など、地域の後期行動計画において求められていることを踏まえ、地域のなかで公立保育所としての役割や特性を生かすことができる取り組みをぜひ考えていただきたい。「既に実施ずみ」と考えず、他の自治体の実践例などと比較し、「うちでやられていないことはないか。もっと効果をあげる方法は考えられないか」と検証してみてください。その上で、公立保育所が地域に主体的に関与することにより、地域全体で子どもをいかに育てていくかについて、主幹課に提案し、庁内での合意形成に努めることが大切です。また、公立保育所アクションプランの作成については、公立保育所組織の中で保育士の意識改革に向けたひとつの手段と考えることはできないでしょうか。

6.民間保育所との立場の違いを認識しながら連携し、地域全体の保育水準を高める

(1)民間保育所との棲み分けと連携

 民間保育所も公立保育所も、どちらも認可保育所であり、児童福祉法39条を根拠にして、保育に欠ける子どもの保育を行い、子どもの健全な心身の発達を図り、保護者の支援を行います。あるいは、児童福祉法48条の3を根拠にして、地域の在宅の子育て家庭への支援、育児相談・助言、一時預かり、親子交流などを行います。
 そこで公立保育所にお願いしたいのは、同じ認可保育所ではありますが、公立保育所としての特性を際立たせていただきたいということです。こうしたセミナーでワークショップなどをやりますと、公立保育士さんから「こんなことがやりたい、こんなことができる」という提案がされます。しかし、庁内では「それは民間のほうが効率的」と思われるようなことを保育士さんが提案しても、主管課からの了解は得られません。
 どのような違いを際立たせたらよいのでしょうか。繰り返しますが私は公立保育所の公共性を重視するべきと考えています。民間保育所においては取り組みが困難であるもの、地域の子ども・家庭福祉の維持向上にむけ行政として果たすべき責任のあるもの、公立保育所の持つ強みを生かせるものに焦点化し、公立保育所アクションプランの活動内容を考えていくべきだと思います。

(2)認可保育所として、地域全体の保育の質の向上を

 公立保育所も認可保育所ですから、預かる子どもに対する保育の質を高めていくべきことは当然です。ただ、公立保育所は「子どもたちに、まじめに向かい合ってよい保育をしています」というだけでは、他の保育事業者との違いが見えてきません。公立保育所として置かれた立場の違いを意識しながら、認可保育所としての役割を高めることが大切です。
 たとえば、自治体が質の向上のために重要であると考えるスタンダードな保育や育児不安や虐待リスクのみられる保護者の支援を展開する。自治体が重点的に推進しようと掲げる先駆的な子育て支援事業を積極的に展開する。このようにして、「公共性=行政として関与する意義」を意識しながら取り組むことが大切です。また、民間保育所と連携しながら地域全体の保育の質を高めていくことも大切な役割です。公立保育所があるから、自治体の保育水準が維持されるのではなく、公立保育所と民間保育所が、それぞれの長所を生かしつつ連携していくことを通じて、自治体における保育の質が底上げされていくのです。公立保育所としてこうした成果を実証できるような活動を考えるべきです。
 たとえば、地域の子育て支援の実践とノウハウの共有化、自治体と民間保育園をつなぐネットワークづくりなどは、公立保育所としての特性を生かせる部分です。認可保育所という枠組みの中で、公立保育所だからこそ取り組むべきこと、もっと高めていくべきこと、深めていくべきことは何か。これは、庁内でも、十分に整理できていないと思われます。だからこそ、公立保育所からそれをより具体的な形にして明らかに、提案していただきたいと思います。

(3)認可保育所としての役割を超えた範囲として、期待される具体的取り組み

 たとえば、行動計画の中でいくつかを拾ってみれば、「幼稚園・保育所、小学校の円滑な接続のあり方を検討する」ということについて、公立幼稚園、公立保育所、公立小学校が一つのモデルをつくりながら、それを全市に拡大していくといったことが考えられます。こうした役割は、児童福祉法の中に具体的には書き込まれていませんが、公立保育所の役割として期待されているものと思います。自らの役割を発見し、作っていくのだという発想が必要です。
 また、働き方の見直しということで、地域の父親たちに対する親育て支援、子育ての喜びを分かち合うためのプログラムといったものも、本来は認可保育所の役割ではないかもしれませんが、公立保育所としてもすすんで取り組むべき分野であると思います。
 要保護児童対策地域協議会におけるニーズの把握や個別ケースの支援に関わることも同様です。あるいは発達障害児に関する啓発活動の展開も、本来は認可保育所の役割ではないかもしれませんが、後期行動計画の中では重要な課題として設定されているはずです。公立保育所はこういった領域にウイングを伸ばしていくことも大切だと思います。
 こうしてみると、公立保育所は、行動計画の対策推進の原動力、エンジンになり得る存在だというのがご理解いただけたでしょうか。しかも、規模が大きければ大きいほど、その推進力は大きなものになります。後期行動計画の進捗に公立保育所がかかわることは、公立保育所の公的な役割領域を広げ、その存在意義を高める格好のチャンスではないでしょうか。

(4)公的責任において取り組むべきこと

 後期行動計画での公立保育所の役割として、行政が公的な責任において取り組むべきことに焦点を当てることが必要です。たとえば、虐待防止や要保護児童への対応などについて、公立保育所も関連機関と連携して子どもを守るセーフティネットをつくっていくことなどが、その一例としてあげられます。そこでは、保育所や行政にアクセスせず、セーフティネットからこぼれおちてしまう保護者や子どもへの対応が課題になります。公立保育所の専門性を地域の中で生かせるのは、そうした部分だと思います。
 また、地域社会の子育て機能の向上、子育てに関する社会資源の開発やネットワークづくりなども、ベテラン保育士が多く行政機関でもある公立保育所の特性を生かすことができます。こうしたことに対しては、税金を投入しても住民に納得してもらえるのではないでしょうか。

(5)質的なデータを把握して保育行政に反映させる

 地域の保育の質向上にむけ、住民のニーズを把握することも、公立保育所の重要な役割になります。計画づくりの中ではアンケート調査を行い量的データを集めますが、これはシンクタンクに任せれば比較的簡単にやってもらえます。しかし、これだけでは大切なことが見えてこないことがあります。そこでこれを補うものとして大切なのが、保育士の経験を通じて得られた知(経験知)、言葉で語られる質的データです。これは、なかなか集めることができません。
公立保育所には、こうしたデータを集めることができます。たとえば、日々の保育や在宅家庭との関わりの中で、子どもの育ちに関する質的なデータを把握して、その経験知を言語化し、共同の学びの場で整理をして、主管課に返していくことができるはずです。
そうなれば、このような資料が、PDCAのサイクルの中で、重要なデータとして反映されることになります。公立保育所がそうしたデータを豊富に持ち、それを生かすことにより、公立保育所に対する自治体の首長の評価も変わってくるのではないでしょうか。
 たとえば、在宅の子育て家庭に対する支援の充実について、施策が想定しているニーズ以外にどのようなニーズがあるのか。地域にはどのような社会資源があって、現在の仕組みやサービスにはどのような問題があるのか。あるいは、どのような仕組みがあれば、そうしたニーズに対応できるのか。新たに求められる事業は何か。それに対して公立保育所ができるサポートは何か。こういったテーマについて、主管課がわかる形で整理してデータを渡せば、行動計画の内容もPDCAのサイクルの中で変わってくるし、主管課も公立保育所の存在価値を認めるのではないでしょうか。

7,将来の公立保育所のあり方

(1)これからの5年間は人材育成の期間

 公立保育所の将来のあり方について、後期行動計画の最終年である2014年ではなく、その10年後の2024年を意識したうえで、後期行動計画の5年間に何をするかを考えるべきです。そして、そこから導き出された将来のあり方に向かって、新しい役割を実践できる人材を育成していくことが大切です。将来の公立保育所は、単に認可保育所として保育に欠ける子を預かるだけの保育所ではあえません。もっと根本的に行政が設置した公立保育所でしか果たせない役割があるはずです。しかしながら、危惧していますのは、こうした役割を実践できる人材が現在の公立保育所にどれだけいるでしょうか。現在40歳代以上のベテランの保育士が15年後までに退職したとしたら、残りの保育士で担っていけるでしょうか。
 地域の子育て力をアップするために、地域の社会資源を把握して、支援体制づくりをすすめていかなければなりません。地域住民のネットワークづくりや、地域の子育ての課題を解決する力を磨いていかなければなりません。そのためには、地域にむけてのソーシャルワークのスキルが重要です。公立保育所において、ぜひとも地域におけるソーシャルワークを実践できる保育士を育てていただきたい。このようにして、公立保育所の将来の役割や機能を考えながら、それに携わることのできる人材を育てる期間としても、後期行動計画の5年間を位置づけていただきたいと思います。

(2)5年間の実績で公立保育所に対する評価は大きく変わる

 将来の公立保育所には、①公立の認可保育所としての役割、②行政組織のなかで保育士という専門職集団により構成される公立保育所が担うべき役割、③地域のネットワークの拠点としての役割が求められます。これらに関して、具体的な対応をアクションプログラムの中で考えていただきたいと思います。
 将来の公立保育所のあるべき姿として、次世代育成支援策において、公立保育所が認可保育所としての実践のみならず、通常の認可保育所の範疇からみて突出した部分、逸脱した部分をも、役割・機能として持つものを公立保育所として残っていくと考えています。どうしたらよいのか走りながら考え、ともかくも一つずつ「実績を積み上げていこう」という合意形成を図っていく期間が、後期行動計画の5年間だと思っています。公立保育士の意識も、実際の行動により変わっていくことでしょう。また、こうした5年間の実績によって、庁内における公立保育所に対する評価も大きく変わってくるのだと思います。

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