2026年4月12日日曜日

保育リスクマネジメント実践編



第5回 検証報告書から読み解く「午睡事故の構造」〜個人の責任に帰さない安全管理〜


午睡時の死亡事故が続いています。子ども家庭庁においても、教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議のなかで、自治体が検証した死亡事故に対する報告書を踏まえて、事故防止の検討がされています。今回は、午睡中の死亡事故に焦点を当て、検証報告書から得られた事故防止に対する気づきについて、話をしたいと思います。


その「安心」が、死の予兆になる

「入園して1ヶ月。ようやく園にも慣れて、給食も食べられるようになり、お昼寝もぐっすり——。お迎えに来た保護者に『今日からぐっすり眠れるようになりましたよ』と笑顔で報告する。」

保育の現場でよく見られる、微笑ましく、達成感に満ちた光景です。しかし、その会話こそが死亡事故へのカウントダウン——いわゆる「死亡フラグ」になり得ることを、私たちはどれほど自覚しているでしょうか。

各自治体が公表している検証報告書が示すのは、保育中の死亡事故の多くが入園から30日以内に集中しているという、残酷な事実です。

もちろん、保護者と喜びを共有することは保育の醍醐味であり、信頼関係の礎です。その喜びを捨てろということではありません。ただ、私たちの脳のスイッチだけは、「慣れた時期こそ、身体への負担が出やすい」という医学的なリスクの方へ、あえて切り替え直しておく必要があります。環境に適応しようとする子どもの身体は、表面上の落ち着きとは裏腹に、見えないストレスを蓄積しているからです。


現場を襲う「魔の時間」とシステムエラー


検証報告書を丁寧に読み解くと、「チェックの見落とし」「記録の形骸化」といった個人のミスが事実として並びます。しかし、有識者会議が議論の焦点とするのは、その先です。

「なぜ、経験豊かな保育士が、5分のチェックを怠ったのか?」

連絡帳の記入、休憩のローテーション、掃除、他の子への対応……。午睡時間中に積み重なる付随業務は、保育士を「1人にしてしまう魔の瞬間」を次々と生み出します。そのわずかな空白を、個人の責任感と使命感だけで埋めさせていないか。これは個人の資質ではなく、組織のシステムエラーです。

マニュアルはある、手順もわかっている。しかし現場の実情とのギャップを抱えたまま、「なんとか回している」状態が常態化している。その歪みが限界に達したとき、事故は起こります。


組織の盲点:教えられていない「静かな死」

今日まで事故が起きなかったのは、保育者の皆さんの懸命な努力の結果です。その実績を否定するつもりは毛頭ありません。

しかし、報告書に名を残すことになった保育者たちも、皆さんと同じように、昨日までは必死に子どもを守ってきた専門家でした。「昨日までの私たち」と「報告書の彼ら」の境界線がどこで引かれてしまったのか。 その一線を考え続けることこそが、今、現場に立っている私たちの責任です。

報告書にある「ひの字型の寝かせ方」や「死角での隔離」は、特異な虐待ではありません。「泣いている子を落ち着かせたい」「他児の睡眠を妨げたくない」という、良かれと思った日常の保育行為の延長線上にあります。その「良かれ」が、一歩間違えれば凶器に変わる。その恐ろしさを、私たちは組織として直視しなければなりません。


システムを動かし、命を守る


経営層・園長の皆さんへ、率直に申し上げます。安全とは、個人の精神論ではなく、投資とシステム構築の問題です。

現場の保育士から「眼差し」を奪っているのは、人員配置の限界と付随業務の過剰な負荷です。マニュアルは「守らせるためのもの」ではなく、現場の保育士が「今は危ないから、1人にしないでほしい」と声を上げるための武器であるべきです。

とはいえ、現場に「声を上げろ」と強いるだけでは酷でしょう。だからこそ、経営層が保育士に「今、1人になっていないか?」「無理をしていないか?」と問いかけ続ける文化を作ってください。現場からのSOSが届かない組織では、マニュアルはただの監査のための免責書類になったままです。


命の最後の砦としてのプライド


どれほどICTを導入し、システムを整えても、最後に異変に気づき子どもの命を救うのは機械ではありません。


顔色がいつもと違う。呼吸の音がかすかに高い。なんとなく、ぐったりしている気がする——その違和感を言葉にできるのは、毎日その子を抱き上げ、肌の温もりを知っている皆さんだけです。命の最後の砦は、整備されたシステムの上で機能する、保育者一人ひとりの研ぎ澄まされた眼差しです。


組織の力で、現場の眼差しを守る。安全な環境と保育士の直観、その両輪が揃ってはじめて、子どもたちの「当たり前の明日」は守られます。共に、一歩ずつ前に進んでいきましょう。

保育リスクマネジメント実践編 

第4回 危機管理のパラダイムシフト 〜「事故防止」から「生存戦略」へ〜


「わが園では起きない」——その確信が、最大の死角になる

事故を起こした施設の管理者が、絞り出すように語る言葉があります。

「まさか、わが園で起きるとは思わなかった」

この言葉が重いのは、言い訳ではないからです。その管理者の多くは、研修に出席し、マニュアルを整備し、朝礼で安全を呼びかけてきた、まぎれもなく「真面目な園長」です。だからこそ問わなければなりません。なぜ、真面目な園ほど最悪の事態に無防備になりうるのか。いいかえれば、『真面目さ』こそが危機管理における最大の盲点となっているのです。

園における『事故防止』という仕組みは、子どもの死亡事故に対して社会からの批判に耐えられず、もう限界に来ています。これからの保育経営に必要なのは、精神論としての安全ではなく、他分野のシビアな知恵を融合させた、冷徹かつ情熱的な『生存戦略』へのパラダイムシフトです。

 

そもそも「危機管理」とは何か

危機管理とは、一言で言えばこうです。

「最悪を想定し、起きる前に備え、起きたときに動ける組織をつくること」

重大事故の発生をあらかじめ想定し、緊急事態に迅速・適切に対処するための手順を事前に決める。そして「知っている」だけでなく、体が動くまで繰り返し訓練する。日常のなかでリスクを常に意識し、保育者全員が「そのとき」に動けるよう組織に根づかせること——これが危機管理の本質です。

研修でこの定義を聞いたことがある園長は多い。しかし「知っているか」と「できるか」は、全く別物です。

 

現場の声を、まず受け取る

リスクマネジメントの研修で、園長からこのような意見を頂戴することがあります。

「危機管理が大切なのはわかる。でも、正直な話、今の保育現場にそんな余裕はない」

この声は、正しいと思います。保育士は毎日、子どもの命と向き合いながら、保育の質を上げることに全力を注いでいます。保護者対応も大変です。職員が足りない、時間が足りない、それでも子どもたちのためにと踏ん張っている。そういう現場に向かって「さらに危機管理もやれ」「リスクマネジメントの体制を構築しろ」と言うのは、あまりに酷に聞こえます。

現場が限界だという声は、悲鳴ではなく、現実です。しかし、だからこそ、管理者に問いたいのです。「現場が限界なら、なおさら、管理者がやるべきことがある」と。

 

危機管理のパラダイムシフト

危機管理に対する考え方を、改めて整理し直すことが大切です。保育園における危機管理では、園長や主任は「事故防止のために現場に指示を出す人」になりがちです。しかし航空業界の教訓である「権威勾配」は、管理者の正論こそがリスクを隠すと警告します。

「園長先生、それは危ないです」と、若い保育士が即座にブレーキをかけられるか——これがポイントです。つまり、危機管理の本質は、マニュアルの完成度ではなく、組織の「風通しの平らさ」にある。この再定義が必要です。

もうひとつ、「事故はすでに起きている」という前提で考えることです。死亡事故につながる小さな事故が繰り返され、対策がとられないうちに、最悪の事態が起こる。「事故ゼロ」を旗印に掲げる園ほど、いざ事が起きた際に機能不全に陥ります。

「今日は事故が起きなかった」ではなく、「今日は起きていたはずの事故を、どの段階で食い止めたか」を検証することが大切です。心肺蘇生の手順、緊急連絡のフロー、保護者対応の初動——これらを日常のルーチンとして組み込んでいるかどうかが、分かれ目です。

 

保育の現場だからこそ、「仕組み」が人を活かす

「航空やIT業界の話をされても、保育は違う」——その感覚はよくわかります。子どもの育ちは、マニュアルで管理できるものではありません。保育士一人ひとりの感性や経験、子どもとの関係性の中にこそ、保育の本質があります。

ただ、他分野の実践から一つだけ紹介させてください。

航空業界では長年、「優秀なパイロットが注意深く操縦すれば事故は防げる」と考えられてきました。しかし大規模な事故の検証を重ねた結果、まったく逆の結論に行き着きます。優秀なパイロットほど、自分の判断を疑わない。その過信が、致命的な見落としを生む。そこで導入されたのが、どれほど熟練したパイロットでも必ず従う「チェックリスト」と、副操縦士が機長に異議を唱えることを義務づける「クルー・リソース・マネジメント」という仕組みです。個人の能力を否定するのではなく、その能力を組織全体で支え、補い合う構造をつくること——これが現代の危機管理の根幹です。

これは保育の現場にも、そのまま重なります。「この時間帯は特に目を離しやすい」「この場所はヒヤリとしたことがある」——そうした現場の感覚を、ベテランの頭の中だけに留めておかず、チェックリストや申し送りの言葉として園全体で共有する。午睡チェックのダブル確認、水遊び時の役割分担の固定化、「担当が変わっても同じ手順が守られる」仕組みの構築。それは、ベテランの経験を否定することではなく、その経験を園全体の力に変えることです。仕組みは、人を縛るためではなく、人の知恵を守り、活かすためにあります。

また、個人の注意力に頼りすぎないことも重要です。「気をつけて」「意識を高く」という言葉だけでは、事故は防げません。製造業などでは、注意力が散漫になっても事故が起きない「物理的・構造的な仕組み」に投資しています。保育の場でも同様に、「誰が担当しても命だけは助かる環境」を設計すること——それが管理者に課された、真の意味での「管理」です。

 

「何を削るか」——答えは現場にある

リスクマネジメントの話をすると、保育士さんから、こんな意見が返ってくることがあります。

「保育の質を上げろ、行事も充実させろ、書類も書け。その上、さらに『最悪を想定したリスクマネジメント』ですか?私たちの体は一つしかありません。今の人数で『完璧な見守り』を求めること自体が、すでに現場への無理強いではないでしょうか。現場は厳しいのです。」

この声は、まったくもって正直な現実です。だから、あえていらない業務を削っていくことが大切です。もちろん、記録、保護者対応、会議、行事の準備——どれも必要だからこそ存在していることは承知しています。現場を知らずに「それを削れ」と言うのは無責任に聞こえるかもしれません。

ただ、少し視点を変えて考えてみてください。危機管理の実践は、「新しい業務を増やすこと」ではなく、「今やっていることの『やり方』を揃えること」です。

たとえば、毎日の午睡チェックの記録。「書いている」けれど、確認の仕方は人によってバラバラ——という園は少なくありません。記録という業務は増やさず、確認の手順だけを統一する。それだけで、見落としのリスクは大きく下がります。業務を足すのではなく、やり方を揃える——これが、現場の負担を増やさない危機管理の入口です。

大切なのは、園長が子ども家庭庁の事故防止ガイドラインにもとづいて事故防止の方法を一方的に決めるのではなく、職員と一緒に「今の手順で本当に大丈夫か」を問い直す場をつくることです。来週の職員会議でこう聞いてみてください。

「『ヒヤリ、ドキッとしたこと』、最近ありませんか。子どもの命を守ることを最優先するには、どうしたらよいですか」

この問いから始まる対話が、現場と管理者が一緒に安全を考える第一歩になります。

 

万が一のとき、現場の先生を守れるか

最後に、もう一つの視点をお伝えします。

万が一、死亡事故が起きたとき——その場にいた職員は深い罪悪感に苛まれ、人生が壊れてしまうことがあります。医療の世界ではこれを「セカンド・ヴィクティム(第2の犠牲者)」と呼びます。

「あなたのせいではない、仕組みの不備だった」——園長が裁判でも、世間に対しても、それを言い切れる準備があるかどうか。その覚悟があってはじめて、職員は隠蔽をせず、共にリスクと向き合えるようになります。

危機管理体制を整えることは、子どもを守ると同時に、現場の先生を守るための、管理者にできる最大の仕事です。

 

明日、一つだけ変える

難しいことはいりません。明日の朝礼でこう問いかけてみてください。

「今日もし何か気になることがあったら、すぐに私に言ってください。あなたの直感を、私は必ず受け取ります」

その一言が、組織の風通しを変えます。覚悟を持った管理者の存在そのものが、現場の心理的安全をつくり、最高の事故防止策になるのです。

2026年1月12日月曜日

保育リスクマネジメント実践編

 第3回:「わかっている」の先へ 

― 「気をつけて」を卒業し、プロの「根拠」を共有する


いつも注意しているのに・・・


「いつも注意しているのに、なぜ……」 重大事故が起きた際、管理者が抱く最も切実な疑問かもしれません。しかし、ここには大きな落とし穴があります。管理者が「注意しろと言ったから大丈夫だ」と考えてしまうこと自体が、実はリスクを放置する原因になっている場合があるのです 。

今回は、ガイドラインの文言を繰り返すだけでは届かない、保育者の「納得感」と「行動」を変えるアプローチについて考えます。


管理者が陥る「伝えたつもり」の罠


多くの園長や主任は、会議や朝礼で「事故に気をつけてください」と呼びかけます。しかし、現場の保育者からすれば、それは「言われなくてもわかっていること」です 。


「注意してください」という言葉は、受け手にとっては抽象的すぎて、具体的な行動の修正に繋がりません 。管理者が「伝えた」ことで満足し、現場の「個人の注意」に丸投げしてしまう状態は、リスクマネジメントが機能していない証拠でもあります。事故は、決して不注意だけで起きるのではなく、「注意していたのに、防げない構造」の中に潜んでいるからです 。


「わかっている」という心理的ブレーキを外す

ベテランほど、リスクの存在は知識として知っています 。しかし、「自分たちの園ではいつも通りだから大丈夫だろう」という心理(正常性バイアス)が働き、無意識にリスクを過小評価してしまいます 。

ここで大切なのは、ガイドラインを復唱させることではありません。保育者の胸にそっと落ちるような、「リスクを自分事として捉え直す言葉」です。


●「なぜ防げなかったのか」ではなく「なぜ事故が起きなかったのか」を語る: 事故が起きていないのは、誰かの「小さな工夫」があるからです 。その具体的なファインプレーを言語化して共有しましょう 。


●「最悪を想定する力」を育てる: 「もし今、ここで子どもが倒れたら?」という問いかけを日常の会話に混ぜ、反射的に動けるイメージを共有します 。


「気をつける」を「仕組み(仕掛け)」に変換する

「気をつけて見る」「注意する」という精神論を、具体的な「とるべき具体的な行動」⇒「保育の仕掛け」に置き換えてみてください 。


●「見守りを強化」ではなく「立ち位置を1メートル下げる」 

: 視界を広げるための物理的な指示 。

●「食事に注意」ではなく「飲み込むまで次のスプーンを運ばない」

   : 動作としてのルーティン化 。

●「環境に配慮」ではなく「この遊具の下には必ずマットを敷く」 

: 誰がやっても同じ結果になるルール 。

 

こうしたOJTなどをつうじた、具体的な「仕掛け」こそが、職員のキャリアと人生を守る「盾」となります 。ベテランの保育士には、OJTトレーナーとして、若い保育士の育成に当たらせる上で、こうした行動の模範を示し、なぜこの行動が必要なのかを説明することで、正常性バイアスの罠から逃れることができます。


 プロとして自信を持って「安全」と言い切るために

「危ないからさせない」という消極的な判断は、子どもの成長の機会を奪ってしまいます 。一方で、「いつも通りでなんとかなるだろう」という過信や、「注意したから大丈夫」という管理者の思い込みは、事故の再発を招き、保護者からの不信感に繋がりかねません 。


この狭間で、プロとして自信を持って「この遊びは、こう工夫しているから安全だ」と言い切るために、共通のチェックリストを活用しましょう 。根拠に基づいた対策を講じることこそが、令和の時代に求められるリーダーシップです 。

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保育リスクマネジメント実践編

 第二回 リスクマネジメントは「攻めの戦略」

子どもの育ちと命を両立させるリーダーシップ~

 

 保育の質の向上が求められる時代

 

保育現場を取り巻く環境は厳しさを増しています。こども家庭庁でも、人口減少・少子化が進むなかで、待機児童解消のための量的な整備から保育の質の向上へと転換しつつあります。都市部の保育園や認定こども園においても、年度当初に定員を充足できない園も出てきています。

 

保護者から選ばれるためにも、園にとって子どもの豊かな暮らしを保障するため保育の質を向上させることは、最も重要な課題となっています。安全品質を上げることも、そのテーマの一つです。いいかえれば、子どもの育ちと命を両立させる運営が求められています。

 

リスクマネジメントの実践とは、法令を遵守し行政の監査に対応することのみならず、社会や保護者から信頼されるための安全品質を確保する「攻めの戦略」として捉えなおす必要があります。

 

「すべてのケガをゼロにする」という誤解を解く

 

保育の中には、常にケガのリスクが潜んでいます。しかし、ここで大切なのは、安全品質を高めるといっても、「すべてのケガをゼロにする」という不可能な目標を掲げないことです。実際、保育中のすべてのリスクをゼロにすることは不可能です。

私はかつて息子を保育園に預けていたころ、「保育はサービスである。保育園は、朝に預かった状態で、夕方保護者にお渡しするには、当たり前。ケガは許されないし、そのことについては、説明と謝罪があって当然」「同じケガが繰り返されるなど、もってのほか」と考えていました。ケガをしても文句はいいませんが、サイレントクレーマーでした。しかし、限られた人数の保育士で、あらゆるケガをゼロにするのは、現実離れしている理想論だったと反省しています。

 リスクマネジメントを研究するようになったのは、子どもが小学生になってからです。現在では、保育中のリスクを2つに分けて考えるようにしています。

 

●「許容できるリスク」

 一つは「許容できるリスク」です。日常の遊びの中で起きる小さな擦り傷や打撲などがこれにあたります。ケガにつながりかねない遊びや体験自体が、子どもが自分の体の限界を知り、危険を学ぶための「成長の糧」でもあります。

 したがって、事故があったからといって、遊びを止めてはいけません。むしろ、安全な保育とは何かと考えつつ、あるべき保育の形を大切にし、保育の質を上げることで対応します。これが、日常のあるべき保育を丁寧に回すことで、リスクを下げるということです。

 ●「絶対に許容できないリスク」

 他方、「重大事故のリスク」は「許容できないリスク」です。たとえば、窒息、溺水、置き去りといった命に関わる事故や、重い後遺症を残す事故です。

 

 重大事故につながる兆候は、ほとんどの場合、軽微な事故やヒヤリハットとして現れています。重大事故が起きてから対応を見直すのでは、手遅れです。ヒヤリハットや軽微な事故で済んでいるうちに、原因と対策を検討してください。必要があれば従来大切にしてきた保育のあり方を見直してでも、事故防止を最優先しなければなりません。

 たとえば、子ども家庭庁に報告される事故のなかでも骨折事故が最も多いのですが、なかには頭部の骨折など重大な後遺症が残るケガも含まれています。大型遊具などの高所からの転落事故のリスクは、危機管理の対応が必要です。

園でのリスクマネジメントでは、「許容できるリスク」と「絶対に許容できないリスク」とを、園として線引きする必要があります。事故につながる遊びをすべて禁止では、保育の質を下げてしまいます。リスクマネジメントといっても、リスクの性質によってアプローチが異なるのです。

 園において存在する様々なリスクに対し、線引きするのは、園長の判断にかかっています。

 

「安全管理」と「危機管理」の違い

 

「危機管理」の定義についても再確認しましょう。

 「安全管理」とは、日常の安全な保育の実践をめざすのに対し、「危機管理」とは、子どもの死亡事故など「最悪の事態が起きた時」を想定した活動です。

 危機管理は「最悪を想定する力」、安全管理は「日常の保育を丁寧に回す力」と考えます。いずれにおいても、園長の仕事は、事故が起きてから動くことではなく、起きなかった理由を作り続けることです。

 

区分

定義・目的  

求められる力

安全管理

日常の安全な保育の実践   

日常を丁寧に回す力  

危機管理

死亡事故などの「最悪の事態」への備え  

最悪を想定する力  

 

危機管理に必要なのは「言語化」と「訓練」

 

みなさんの園で子どもが食べ物を詰まらせたなどの事故が起きたら、職員は迷わず動けますか?

 危機管理で重要なのは、迅速かつ適切な対処のための手順が「言語化」され、「訓練」されていることです。園長にとって大切なことは、「まさか」は必ず起きると考えることです。したがって、園長の役割は、その時に保育士がパニックにならず、子どもの命を救う行動をとれるように準備をすることです。

 必要な体制を整えておくことが、園長の仕事です。日頃から園長先生が「危機管理ガイドライン」を策定し、繰り返しシミュレーションを行っているかどうかにかかっています。

 

安全管理は「遊びを止めない」こと

 

安全管理とは、遊びを止めないで、リスクを下げる視点をもって、日ごろの保育を継続することです。

 なお、「園庭での転倒事故が続いていますから、注意してください」と呼びかけるだけでは、リスクを下げる効果が小さいと思います。事前事後において保育の環境を整える、保育中の見守りの配置を工夫するなど、具体的な「仕掛け」によって、子どもたちの挑戦を支えるのがプロの保育士の仕事です(参照:遊びと安全のチェックリスト 筆者作成)。

 

令和の時代に求められる園のリーダーシップ

 

重大事故のリスクは、多くの場合、軽微な事故やヒヤリハットの中に兆候が現れています 。こどもの命が危険にさらされる事態を防ぐには、ヒヤリハットの段階で原因を検討し、時には従来の保育のやり方を見直してでも、事故防止を最優先する決断が必要です 。

 「危ないからさせない」という消極的な保育は、子どもの育ちを奪います。一方で、「なんとかなるだろう」という過信は、子どもの命を奪います。

 この狭間で、エビデンスに基づいた対策を講じ、チームで安全を創り上げていく。それこそが、令和の時代に求められる園のリーダーシップです。

 重大事故の防止と質の高い保育の実践、これを車の両輪として回していくのが、令和の時代に園長に求められるリーダーシップです。

2026年1月11日日曜日

簡単なプロフィール

 

タイトル:現場の皆様と共に、これからの福祉経営を考える「研究室」へ

大阪公立大学名誉教授の関川芳孝です。

私はこれまで、社会福祉法制や福祉経営の研究に長年携わってまいりました。しかし、大学の教壇で培った理論以上に大切にしたいのは、いまこの瞬間も子どもたちの命を預かり、現場の最前線で奮闘されている皆様の「声」です。

最近、全国での講演を通じて痛感していることがあります。それは、「事故を防ぐためのルール」だけでは、現場は守りきれないということです。職員のメンタルヘルス、心理的安全性の高い組織づくり、そして何より「人を育てる」という視点。これらが組み合わさって初めて、生きたリスクマネジメントが完成します。

このブログと研究室(公式LINE)では、https://lin.ee/va2H24W

  • 講演の準備段階で生まれた**「最新のアイディアや問題意識」**の共有

  • 法的な視点と現場の心理を融合させた**「新しい経営のヒント」**

  • 皆様と一緒に、現場のリアルな**「経営問題を解決する対話」**

を目的としています。 学術的な正解を提示するだけでなく、皆様の「同志」として、共に福祉の未来を考えたい。そんな想いで知見を「お裾分け」していきます。どうぞ気軽な気持ちで、この研究室の扉を叩いてください。


【略歴】

  • 関川 芳孝(せきかわ よしたか)

  • 大阪公立大学 名誉教授(現代システム科学研究科 客員研究員)

  • 専門:社会福祉法制論、福祉経営

  • 神戸大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学後、琉球大学、北九州大学、カリフォルニア大学バークレー校(客員研究員)を経て、大阪府立大学(現・大阪公立大学)教授を歴任。

  • 現在は、国や自治体の委員や保育施設等での講演活動を通じて、リスクマネジメントと人材育成の両立を支援している。

    内閣府 教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員

    厚生労働省近畿厚生局 近畿地方社会保険医療協議会会長

    全社協福祉サービスの質の向上推進委員会委員

    全国保育協議会保育所長専門講座運営委員会委員



保育リスクマネジメント実践編

 

定年退職し、あらためて、保育のリスクマネジメントについて連載をし、日ごろ考えていることを少しずつ述べていきたいと思います。教育保育施設の園長、主任など管理者に向けた連載になります。


【連載】保育の質を高めるリスクマネジメント


第1回:なぜ「ベテラン」の現場で事故は起きるのか? ― 職員を守るためのリスクマネジメント

教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議が、今年も開催されます 。そこでは死亡事故の検証や報告が行われますが、資料に目を通すたび、「なぜ防げなかったのか」「体制は整っていたのか」という悔しい思いが込み上げます 。

保護者にとって、安心して子どもを預けられることは大前提です 。園には安全を見守る体制を整える当たり前の義務がありますが、報告される事故の多くは、その「当たり前」が欠落していた結果であることが少なくありません 。

専門性が高いからこそ陥る「心理的落とし穴」

万が一、命に関わる事故が起きれば、保護者の悲しみは計り知れません 。そして同時に、現場にいた保育者もまた、過度な自責の念に駆られ、離職に追い込まれるなど、その人生に深い影を落とします 。

ここで注目すべきは、事故を起こしたのが決して「不真面目な保育者」ではないという点です 。むしろ経験豊富で、責任感があり、園でも頼りにされているベテラン保育者のもとでも事故は発生しています 。

ベテランほど、以下のような心理傾向に陥りやすいことが分かっています。

 ① 異常な兆候があっても「いつも通りだ」「大丈夫だろう」とリスクを過小評価してしまう 。

 ② 知識や経験があるがゆえに、リスクを「わかっている」つもりでスルーしてしまう 。

 ③「まさか」が起きた後になって初めて、現実のリスクに気づく 。


リスクマネジメントは職員を守る「盾」

重大事故が起こると、園には、マスコミや保護者に対して「普段からどのような体制を取っていたか」を説明する責任があります 。

真のリスクマネジメントとは、単に事故を防ぐことだけではありません。「なぜその事故が起きなかったのか」という根拠を、論理的に説明できる力を実装することにあります 。

また、リスクマネジメントの徹底は、子どもたちの命を守ることはもちろん、「職員のキャリアと人生を守るための盾」でもあります 。ヒヤリハット報告を集める上でも、この視点を、ぜひ現場の職員一人ひとりに伝えていただきたいのです 。


リスクを「意図的に意識する」体制づくり

日ごろ事故が起きていなくても、重大事故に繋がる潜在的なリスクは確実に存在しています 。これを見逃さず、意図的に意識して準備を整えることが、園の組織的なリスクマネジメントです 。

そのための第一歩が「ヒヤリハット報告」の活用です。単なる記録作業にせず、「自分ならどう防ぐか」を全員が主体的に考えるきっかけにしていきましょう 。


この活動の裏話や、経営に役立つ資料のお裾分けは、こちらの公式LINE(関川福祉経営研究室)で配信しています。

https://lin.ee/va2H24W


2012年5月25日金曜日

久しぶりの投稿です。

しばらく更新しておりませんでした。 tuitterなどもあり、ブログが放置されて、ふと可哀想になったしだいです。 久しぶりに、スタバでコーヒー頂いております。


東大阪市社会福祉審議会

本日は、午後から東大阪市の社会福祉審議会に参加します。 中核市である東大阪市は、社会福祉法に基づき社会福祉に関する事項を調査審議するため、地方社会福祉審議会を設置しています。 東大阪市社会福祉審議会の会長、老人福祉専門分科会の委員長をさせていただいております。 老人福祉専門分科会では、介護保険事業計画作成などの審議に関わってきました。 本日の審議会は、24年度最初の審議会ということもあり、各計画の進捗状況を担当課から説明を受けること。 障害福祉と介護保険・高齢者福祉について、中長期的な課題を取り上げて、審議することになっています。 事前の打ち合わせでは、地域包括支援センターの運営課題、障がい者の地域移行について、取り上げたいと説明を受けています。 どのような意見が出るか楽しみです。


 社会福祉法人の理事会で監事報告


審議会終わり次第、神戸に移動し、社会福祉法人の理事会に出席します。 こちらでは、監事をさせていただいております。 監事報告をしなければなりません。 監査の結果では、法律違反などはありませんでしたが、幾つか事業運営上の課題が確認されています。 理事長の業務執行をチェックするのも監事の仕事です。 理事会で報告されている事業計画が適正に実施されているかを確認します。 栄養士の業務について、説明を受けながら、質問させていただくだけでも、組織上の課題が見えてきます。

2011年11月8日火曜日

保育リスクマネジメント講座をします

大阪府立大学、地域福祉研究センターは、堺市保育リスクマネジメント研究会と共同し、保育士を対象とした「保育リスクマネジメント講座」を企画しました。

3回シリーズで、事故事例に学びながら、保育所における事故防止の課題 について考えます。

公立保育所の保育士さんと民間保育園の保育士さんとの共同の学びの場をもちたいと考えています。


夕方の遅い時間ですが、一緒にに学んでみませんか。

関川がわかりやすく講義します。








2011年10月27日木曜日

福祉サービス第三者評価とは何か

◆「サービス評価とは何か」




「サービス評価とは何か」いう問いに対して、明解に答えることは難しい。というのも、サービス評価といいながら、サービス評価のねらい、評価機関の性格、評価基準、さらには評価方法など、実に様々なものがある。しかも、従来は、高齢者の分野、障害者の分野、児童の分野いずれも、異なるサービス評価の仕組みがつくられていた。

また、第三者が福祉サービスの内容を評価する仕組みは、いわゆる「第三者評価」ばかりではない。第三者が福祉サービスの内容をチェックする仕組みとしてみると、類似の機能をもつものが存在する。

たとえば、行政の監査も、会計および職員配置など最低基準と関わって、福祉サービスの質を確保するものといえる。そこで、監査担当職員は、監査マニュアルに従い、福祉サービス提供のあり方についても問題はないか、点検してきた。

福祉オンブズマンなどのように、第三者が福祉施設を訪問し、サービスの内容や利用者の意見を聴取する仕組みにおいても、第三者が福祉サービスの内容をチェックする機能をもつ。

また、苦情解決の仕組みも、利用者や家族から利用のあり方やサービスの質についての苦情があり、苦情解決の委員会が必要と考えれば、委員が施設を訪問調査し、問題となっているサービスの内容について聞き取りをする。これらも目的は違うが、苦情解決のプロセスにおいて、福祉サービスの内容について第三者がチェックすることになる。

また、利用者の家族や地域の方々が、福祉サービスを選択するための情報を収集する目的で勉強会やサークルを立ち上げ、アンケートなどの方法により、協力してくれる施設から福祉サービスについての必要な情報を収集し、サービス選択に必要な情報を発信する例もみられる。

これに対して、福祉施設を経営する事業者団体においても、サービス評価基準を定め、調査員が会員施設に対し訪問調査し、評価内容を公表するという活動も存在します。多くの場合、これらは事業者による自己点検の一環として位置づけられているが、「第三者」の意義を「当該サービスを提供している当事者以外の者」と考えれば、これも第三者が福祉サービスを評価する取組みとして位置づけることも可能かと思われる。

既にISOの認証を受けている福祉施設もみられる。ISOも、広い視野からみれば、福祉施設が受審するかぎりでは、福祉サービスに対する第三者による評価といえる。さらには、利用者満足度調査も、サービスの質を評価する機能をもつものと位置づけることもできるであろう。

さらにいえば、介護事業に対する情報開示の標準化の取組も、第三者が訪問しサービスの体制などについて事実の確認し、その内容を公表するというものであるから、サービス評価に極めて類似する仕組みとなっている。

こうした状況を踏まえ考えると、「サービス評価」といっても、これに対する認識は、「何をイメージするか」によって、人によってかなりズレがあるのは、当然のことである。また、サービス評価といわれているものでも、サービス評価の実施機関によって、活動の目的や活動内容も様々であった。実際、評価内容も評価結果の取りまとめ方法もかなりの違いがみられた。

国の側では、福祉サービスの「第三者評価」について、「社会福祉法人等の提供するサービスの質を事業者及び利用者以外の公正・中立な第三者機関が専門的かつ客観的な立場から行った評価」であると定義した。その上で、「第三者評価」についてのガイドラインを公表し、必ず行うべき評価基準と評価機関のあり方を定め、都道府県レベルで、評価機関を認証する仕組みの設置を定めた。第三者評価に対する信頼性を確保するためには、評価機関の独自性を認めつつも、やはり基本となる枠組みが必要と考えたからである。

ここでは、福祉サービスの「第三者評価」とは、あくまで「国のガイドラインの定める枠組みのなかで行われる第三者機関による福祉サービスの評価」をいう。したがって、都道府県レベルの認証を受けないで行う「第三者評価」以外のサービス評価も存在する。たとえば、既に先行してサービス評価を行ってきた組織などが、評価体制や評価基準を堅持しようとする場合がありえよう。これらについては、「サービス評価」に違いはありませんが、国のガイドラインに適合しないわけであるから、国がガイドラインとして定めた「第三者評価」には含まれないという整理ができるかと思われる。もちろん、福祉施設関係者は、「第三者評価」以外のサービス評価を受けてはならないというものではない。ただ、施設が受審しても措置費の弾力化という措置に与れないにすぎない。



◆「サービス評価事業の現状 大阪府下を中心に」

以上のことからもわかるように、サービス評価事業の現状は、極めて多様である。各都道府県のレベルでみても、いまだ推進組織が立ち上がっていないところも存在する。福祉施設関係者の皆さんのなかからも「私どもの県では、正式な評価機関が立ちあがっていないので、受審できません」という意見も聞かれる。こうした都道府県においては、サービス評価に対しても消極的な姿勢を見せる事業者が少なくない。どうやら「受けなくともよいのなら、受けたくない」というのが本音のようである。

さて、先行して積極的にサービス評価の体制づくりに取り組んできた都道府県もある。たとえば、東京都などがあげられるが、東京都の取組については、既に月刊福祉の特集で取り上げているので、ここでは大阪府におけるサービス評価事業の状況を紹介したい。

大阪府では、平成十二年七月から「福祉サービスの第三者評価に関する調査検討会」を設置し、サービス評価の実施体制の確立に取り組んできた。平成十四年度には、自ら評価基準を策定し、評価調査者の養成研修も実施した。そして、大阪府下の福祉施設の幾つかは、こうしたサービス評価を受けていた。

ところが、国が平成十六年に「福祉サービス第三者評価事業に関する指針について」(通知)が公表されたことから、先行してサービス評価事業の確立にとりくんできた自治体においては、サービス評価事業の推進にブレーキがかかってしまった。ガイドラインにもとづき、評価機関を認証する仕組みの構築や評価基準の見直しが必要になったからである。それに伴って、評価調査者の養成もやり直さなければならなくなった。

大阪府では、平成十七年度になってようやく実施体制が整った。すなわち、国のガイドラインにもとづき推進組織を設置し、評価機関の認証を行ったところである。認証された評価機関は、平成十七年度六月現在、高齢者分野に対する評価機関として、二十二法人におよぶ。新基準による「第三者評価」事業の本格実施、すなわち福祉施設が認証された評価機関によるサービス評価を受審し、その評価結果が公表されるのは、これからという状況である。なお、既に幾つかの福祉施設が受審を申し込んでいる評価機関もあり、今年度中にも評価が行われる見込みである。

認証を受けた二十二の評価機関は、高齢者に対する評価基準が先行して策定された関係から、高齢者分野の評価機関である。その内訳は、NPO法人が十三団体、株式会社および有限会社が七団体、社会福祉法人(社会福祉協議会)が一団体、社団法人が一団体、という状況となっている。高齢者の分野では、予想されるところはおよそ出揃った状況である。

さらに、障害者および児童福祉分野については、十月に行われる第二回の認証申請において、新規認証申請を受付ける。また、既に認証を受けている機関は、評価実施分野の変更(追加)の届出をすればよいことになっている。介護と並んで大きなマーケットになると思われる保育の分野において、どのような評価機関が認証の申請をしてくるのか、関心がもたれるところである。

既に認証されている高齢者分野の評価機関についてみると、評価機関の性格は幾つかのグループに、分けられる。社会福祉法人である大阪府社会福祉協議会をはじめ、NPOなど非営利法人、そして株式会社および有限会社である。

大阪府社会福祉協議会は、高齢者分野に限らず、他の分野についても、そして府下全域を対象として「第三者評価」を行うのでしょう。これに対して、NPOなど非営利法人については、組織の性格から、高齢者の分野に限定し、地域密着で「第三者評価」事業を展開すると思われるものも存在する。NPOなど非営利法人の性格も、これまでの組織の活動内容からみると、「まちづくり」「高齢者の暮らし」「生きがいづくり」の分野で活動してきた組織、さらには当事者運動や人権運動に取り組む組織まで様々である。

さらに、株式会社および有限会社による評価機関のなかには、大阪府以外の都道府県からの新たに参入してきたものが幾つか存在する。総合コンサルティングを手がけてきたもの、会計コンサルティングを行ってきた会社、また官庁シンクタンクとして、主として行政計画の分野で実績があるものも認証を受けている。


◆「第三者評価の活用をめぐって」


介護事業を行う事業者において悩ましい問題は、老健局が義務化する方針を掲げている「情報公開の標準化」の取組との兼ね合いであろう。特養を経営する社会福祉法人関係者に少し話を伺うと、第三者評価の受審については、もう少し様子を見たいというのが本音のようである。事業者としてみれば、「受けなければならないもの」を優先せざるをえないと考えるのは当たり前のことである。

「第三者評価」は、「受けなければならないもの」ではない。最低基準をクリアしておけばよいという事業者もいるであろう。これに対して、サービスの質について利用者・家族・地域から信頼されたいという事業者が、差別化戦略として、「第三者評価」を受けたいと考えるのであろう。

さて、第三者評価を活用するねらいには、対外的には、信頼の確保があげられる。それに対して、対内的には、人材育成が期待できる。なかでも、受審までの準備で中心的な役割を担う職員には、職員の協力を取り付けるためには、かなりのリーダーシップが必要になる。また、受審までの取り組みにより多くの職員が参加し、点検や改善に関わることで、職員は現在福祉サービスに求められている「時代標準」に改めて気づくことになることも、期待される効果のひとつといえる。

こうしてみると、「第三者評価」の受審は、職員全員を対象に、あらためて、法人の経営理念を浸透させ、サービスの質を継続的に改善する取組を徹底する格好のチャンスとなろう。監査を受けるのと同じ意識で、事務長クラスが書類上の準備をして、「とりあえず受審してみた」というのでは、職員において評価結果について当事者意識が醸成されない。したがって、評価を受けた後における継続的なサービス改善の取組は、あまり期待できないと考える。

措置費の弾力化の恩恵に与りたくて、「第三者評価」を受けるというのも、受審の動機としてわからなくはないが、「第三者評価」本来の目的からみると、本末転倒しているように思われる。措置費の弾力化というのは、あくまで「おまけ」のご褒美にすぎない。これを受審の目的にすると、本来の継続的なサービス改善の取組のねらいがかすんでしまう。

サービスの質を継続的に改善する取組としてみた場合には、受審までのプロセス、および受審後のプロセスが大切である。評価を受けておけばよいというのでは、監査とあまり変わらない。

なお、職員の意識を変えるツールとしてみた場合には、「ほとんど準備なしに、日ごろの実態をみてもらい、専門的な第三者から評価を受ける」という手法は、ショック療法として有効かもしれない。「できているつもりであったが、cをつけられた。次は何とか名誉挽回したい」と考えてくれたらしめたものである。このように、受審後にポイントを置いて、評価結果に対し、職員総出によるサービスの底上げに取り掛かるというシナリオである。一年間継続的に体制を見直して、あらためて再受審するというのも、改善効果が期待できる手法といえる。

さて、こうした利用目的からみると、少なくとも「なぜ、bなのか」「なぜ、cなのか」という評価結果の根拠を、評価結果と共に記述してくれる評価機関を選びたいものである。それができる評価機関は、専門性が高い評価調査者を養成できている証明でもある。受審した施設の職員にしても、これをみて改善に取り組むことができるから、比較的受審後の改善意欲は上がるものと考えられる。

最後に、第三者評価を活用する事業者の立場からいうと、どの評価機関を選んだらよいのか、悩ましい問題である。これについては、福祉専門職による公正・中立的な評価を求めているのか、経営コンサルティング機能をも期待しているのか、あるいは「市民感覚を大切にしたい」とか「利用者の厳しい評価」に耐えうる組織づくりを目的としているのかによっても、違ってくる。その意味では、都道府県レベルの推進団体において、評価機関の少し詳しいプロフィール、評価の傾向などが、事前に公表されることが望ましいように思われる。もっとも、一番大切な調査評価者の質については、受審した施設などから、口コミ情報を集めるしかなさそうである。

検証 社会福祉基礎構造改革 福祉サービス第三者評価

社会福祉基礎構造改革の推進により、福祉の仕組みが利用者本位のサービスへと転換が図られた。なかでも、大きな改革のポイントのひとつは、情報開示、苦情解決とともに、サービスの質を向上させる仕組みを取り込んだことにある。これにより、利用者はもとより、国および地方自治体、さらにはサービス提供事業者の意識も、措置の時代と比較すると随分と変化しつつある。


サービス評価の取組は、既に各県レベルでスタートしている福祉サービス第三者評価事業をはじめとして、多様な広がりを見せている。今回の特集では、こうしたサービス評価を受審した社会福祉法人が、サービス評価の意義をどのように受け止めているのか、さらには活用していく上の工夫のポイントはどこにあるのかなど、検証してみる必要があると考えた。

サービス評価の仕組みは、スタートしたばかりの制度である。評価基準や実施体制などについても、様々な意見が社会福祉関係者のなかに存在する。これについて、いまだ批判的な意見や懐疑的な意見の方が多いかもしれない。

また、実際に制度の運用からしましても、幾つも懸念される問題が指摘できるかと思われる。たとえば、甘い評価をする評価機関に受審申請があつまらないか。さらには、評価者の主観により評価結果が違ってこないかなどの意見があろうかと思われる。

しかしながら、制度のこうした問題点を改善していきながらも、福祉の現場においては、サービス評価の意義をプラス思考で受け止めることが大切かと考える。社会福祉法人によって経営される施設にとっては、これまで培ってきた福祉の専門性を、第三者評価という仕組みをつうじて、情報発信する格好のチャンスであるかと思われる。さらには、利用者の選択に必要な情報を積極的に提供するわけであるから、社会福祉法人ならではの公益性を証明することにもつながると考える。

さらには、施設において職員が、業界スタンダードである評価基準に照らして自らのサービス内容や水準を検証し、サービス管理体制の改善に取り組む。サービス評価とは、福祉―ビスに対する経営者の理念を組織に浸透させ、職員によるサービス改善の意識を育て、これらによってサービスの品質を管理するシステムの構築につなげていくひとつのツールであると考えられる。評価結果よりも、こうしたプロセスのなかで、サービス管理の責任者を育て、彼・彼女を中心にして、職員相互のチームワーク力を鍛えることが大切ではないだろうか。しばしば、高額な費用を払ってまでサービス評価を受審する価値があるのかという声が聞かれるが、少なくとも経営者であれば、サービス管理に関わる必要な人材の育成に投資するものと考えることができるかと思われる。そのためにも、行政とともに、サービス評価を受ける事業者の側からも、調査評価者あるいは評価委員として協力するなど、信頼できるサービス評価機関を育てていく必要があろうかと思う。

福祉サービス第三者評価の課題

福祉サービスの質の向上にむけて―特別養護老人ホームの取り組みを中心に―

はじめに

社会福祉基礎構造改革により、措置から契約へと社会福祉の制度枠組みが転換した。介護サービスの提供が市町村から市場に委ねられることになった。もちろん、介護サービスの市場は、契約といっても自由な取引を認めるものではない。国や地方自治体の関与のもとで、介護サービスの市場が維持されている。政府により管理されているにせよ、市場メカニズムを取り入れることにより、利用者がよりよいサービスを選択し、これによりサービス事業者を競争させ、結果として質の高いサービスをより効率的に提供できると考えられた。平成十四年八月に内閣府国民生活局物価政策課より発表された報告書「介護サービス市場の一層の効率化のために」においても、民間企業を中心とする新規参入などにみられるように、競争によりサービスの質が向上したと認めていた 。


しかし、平成十九年に起きたコムスン事件を見る限りでは、競争がサービスの質を向上させることについては、疑わしいように思われる 。実際、競争によるシェア確保、利益重視が優先されると、組織として、優れた人材の確保・定着させること、さらにはサービスの質の向上につなげていくことはきわめて難しいことが明らかになったといえる。言換えると、コムスン事件が問うていることは、民間事業者による不正請求の事案のみならず、民間参入を促進するだけでは、必ずしも競争によりサービスの質が向上するとはいえないことである。コムスン事件を契機に失墜した信頼を回復するためにも、法令遵守のための業務管理体制の確立はもとより、福祉サービス第三者評価制度など、政府の積極的な関与により、サービスの質を向上させる仕組みが重要であることを示唆するものといえる。本稿では、こうした問題意識から、介護サービスの向上にむけた福祉サービス第三者評価の現状と課題について考えてみたい。


1 サービスの質の向上の取り組み

 
措置制度の時代では、最低基準を定め監査という手法で行政システムのなかで介護サービスの質をコントロールしてきた。施設の設置者に対し、厚生大臣が定める特別養護老人ホームの運営基準を遵守することを義務づけ、都道府県知事に報告の徴収および立ち入り調査の権限を与えた。改善命令に従わなければ、事業の停止および認可の取り消しができた。


介護保険法のもとでは、従来からの行政による監査・監督の手法に加え、経営情報の開示、第三者によるサービス評価、苦情解決、介護相談員派遣事業といった新たな制度が組み込まれた。2005年法改正から、介護サービス情報の公開も義務付けられている。また、介護報酬の見直しによって、事業者に対しサービスの充実に取り組むようにインセンティブを与え、誘導する手法もとられてきた。


さらには、ケアマネジメントの手法が義務付けられ、身体拘束も禁止された。介護事故回避のためのリスクマネジメントについても指針も公表された。2009年からは、法令遵守に向けた業務管理体制の確立も義務付けられている。


こうした制度の見直しは行なわれたが、はたして事業者により提供されるサービスの質はどこまで向上したのであろうか。措置の時代と比較して、どこまでサービスの質が改善されたかについては、必ずしも実証的かつ科学的に証明できる資料は持ち合わせていない 。しかし、サービス評価や苦情解決、リスクマネジメントなどの研究などから施設の実態に関わる中で、特別養護老人ホームにおいては、介護サービスの質の向上の取り組みについて、二極分化が進んでいると感じている 。


将来競争優位に立つため、サービス・マネジメントの手法をもちいて、介護サービスの質の向上に積極的に取り組んでいる施設も存在する。しかし、様々な仕組みが入ってきても、あいかわらず措置の時代と同じような方法・水準でサービスを提供している施設もある。こうした施設でも、最低基準を遵守しているので、指定の取り消しや認可の取り消しには至らない。市場原理がサービスの質の向上のために機能しない事例が少なからず存在している。


社会福祉基礎構造改革においては、施設自身による継続的な質の確保の取り組みに期待したが、必ずしも十分な効果をあげることに成功していない。これを施設経営者のモラルの問題を考えることもできようが、制度構造自体にも幾つかの要因が存在する 。


ひとつは、会計基準の変更があげられる。新しい会計基準では、介護報酬の使途が自由化され、経営努力により黒字となれば、経営成果すなわち事業上の利益として認められるようになった。措置の時代には、収支均衡が原則であり、繰越金に対しても限度額が設定されていたことからすると、経営者の裁量が拡大した。効率的な運営により、得られた利益をサービスの質の向上の取り組みに充当したならば、施設自身による継続的に質の確保の取り組みが可能となるはずであった。しかし、施設経営は、人件費を中心に経費削減には成功したものの、サービスの質の向上を棚上げしたように思われる。


介護保険経営実態調査をもとに、特養などの施設経営が黒字となっていることを踏まえて、介護報酬は、改訂のたびに引き下げられてきた。2009年の改訂により、職員の処遇改善の必要から介護報酬が引き上げられたものの、増えた収入の一部がサービスの質の向上に当てられるかは、経営者の裁量に委ねられている。


もうひとつの要因は、市場機能に委ねるだけでは、サービスの質を引き上げるインセンティブが働かないことがあげられる。特別養護老人ホームの整備数は限られており、介護の市場は、いまだ需要過剰の状態にある。利用料が安いこともあって、いまだ入居を希望する者は数多い。また、施設のサービスの質に不満があっても、退去しようと者はごくまれである。経営者からみると、サービスの質を向上しなくても、施設の存続が危うくなる状況にはない。逆に、利益を削ってサービスの質を向上しても、地域で一番信頼できるとの評価を得られようが、定員がある限り、収入の飛躍的なアップにはつながらない。


認知症対応型共同介護や有料老人ホームなどの特定施設入居者生活介護、小規模多機能居宅介護が増えているが、利用料の違いもあって、特別養護老人ホームの経営に脅威となる状況ではない。特別養護老人ホームに利用者・家族の需要が集中しなくなり、サービスの質の悪い施設においては、定員割れもありうることが明確になれば、第三者評価の仕組みや苦情解決はもちろん、サービス全体の継続的な改善・見直しなど、サービスの質の向上に取り組む施設が増えることであろうが、当面こうした状況は期待できない。


2 福祉サービス第三者評価について

福祉サービスの質の向上のために第三者評価の仕組みが導入されているが、必ずしも十分に普及・定着しているとはいいがたい。ここでも、積極的に受審に動いた施設と、様子見を決め込んでいる施設とに二分される。しかしながら、後者の全ての施設が、サービスの質の向上について、関心がないわけではない。サービスの質の向上の必要性を認めながらも受審を躊躇っている施設にターゲットに受審拡大を図るためには、制度上何が課題であるのか検討したい。


① 福祉サービス第三者評価事業の経緯
 
福祉サービスの質の向上の取り組みは、利用者本位の福祉サービス利用制度への転換を行うために、重要な改革のテーマのひとつにあげられた 。中央社会福祉審議会が、1998年に、「社会福祉基礎構造改革について(中間まとめ)」を明らかにしたが、「サービス内容の評価は、サービス提供者が自らの問題点を具体的に把握し、改善を図るための重要な手段となる。こうした評価は、利用者の意見も採り入れた形で客観的に行われることが重要であり、このため、専門的な第三者機関において行われることを推進する必要がある」とされた。この中間まとめを受け、福祉サービスの質に関する検討会が、「福祉サービスの質の向上に関する基本方針」を公表し、福祉サービス第三者評価の基本的な枠組みを検討した。検討内容は、「福祉サービスにおける第三者評価事業に関する報告書」としてとりまとめられ、国は、社会福祉法第78条にもとづき、福祉サービスの質の公正かつ適切な評価の実施に資するための措置として、「福祉サービスの第三者評価事業の実施要綱について(指針)」を通知として公表した。


 「福祉サービスにおける第三者評価事業に関する報告書」では、福祉サービスにおける第三者評価事業を導入するに当たって、基本となるべき評価基準として、福祉サービス全般(全ての入所・通所施設及び在宅サービス)を対象とした基準を策定したが、個別のサービス分野ごとの基準については、厚生労働省の各部局において、本基準並びに各サービスの特性を踏まえて策定されることを期待するものした。そこで、保育所・児童の分野、障害者の分野、介護の分野、担当部局ごとに、福祉サービス第三者事業を検討、実施し始めた。たとえば、介護サービスについては、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)は都道府県が定める基準にもとづいてサービスの自己評価を行い、外部評価を受けることが義務付けられた。また、介護サービス事業者に対し介護サービスの情報公開を義務付けることを検討していた。


さらには、地方自治体やNPOも、個別に自ら基準や仕組みを構想し、第三者評価の事業を展開し始めた。東京都と大阪府の実施体制や評価方法が大きく異なるなど、地方自治体ごとに、評価基準および評価の仕組みには、かなりの違いがみられた。また、北九州市なども、条例にもとづき自治体が評価機関を設置し、自ら定めた評価基準にもとづいて第三者評価を始めた。こうした実施状況を受けて、あらためて全国的に共通した福祉サービス第三者評価事業の基準や評価の仕組が必要とされた 。2003年、全国社会福祉協議会は、厚生労働省から補助を受けて、「第三者評価基準及び評価機関の認証のあり方に関する研究会」を組織し、評価機関の認証のあり方、評価基準の見直しの検討を行い、「福祉サービス第三者評価事業に関する指針について」をとりまとめた。厚生労働省は、第三者事業の普及・定着のために2004年「福祉サービス第三者評価事業に関する指針」を公表した。この指針にもとづいて、都道府県ごとに推進組織を設置し、評価機関を認証、所定の評価基準にもとづき評価機関が行った評価結果を公表する現在の仕組みがつくられている。


2009年には、福祉サービス評価事業ガイドラインを一部改正した。まず、都道府県推進組織ガイドラインについて、①都道府県の関与を努力義務化する②第三者評価の客観性を担保するため「第三者評価機関は、自ら直接経営する事業所」についても評価できない旨明記③評価決定委員会の設置を規程④利用者調査を努力義務として定めた。評価機関認証ガイドラインについては、①評価調査者養成研修に修了要件を追加②第三者評価機関認証の有効期間の新設③第三者評価機関からの認証辞退の取り扱いについて定めた。福祉サービス第三者評価基準ガイドラインおよび福祉サービス評価結果の公表ガイドラインについても、若干の見直しを行なった。


② 福祉サービス第三者評価事業の仕組み

福祉サービス第三者評価事業の目的は、事業所によるサービスの質の向上に向けた取り組みを支援することにある。社会福祉事業の経営者には、自ら提供するサービスの質の評価を行うことその他の措置を講ずることにより、利用者の立場にたって、良質かつ適切なサービス提供の義務がある。第三者評価を受けることにより、事業運営やサービスの内容に具体的な問題や課題を発見・改善し、サービスの質の向上につなげることができる。また、評価の結果は、事業者の同意により都道府県の推進組織から公表される。こうした情報は、地域の利用者や家族などにとって、サービス選択に役立つ情報となる。


福祉サービス第三者評価事業が、事業者はもとより、地域住民からも信頼され普及・定着する体制づくりのために、都道府県ごとに推進組織が設置されている。都道府県が自ら推進組織となる場合が比較的多いが、都道府県社会福祉協議会、公益法人、任意団体も推進組織となっている。


事業者は、推進組織から認証を受けた評価機関のなかから受審する評価機関を選び、評価の申し込みを行い、契約にもとづき評価を受ける。福祉サービス第三者評価の受審は、あくまで任意であり、義務付けられているわけではない。なお、受審は有料であり、事業者が費用を負担する。受審を奨励するために、受審する事業者に対し費用の一部を補助する地方自治体もある。


評価基準は、いずれの施設にも共通する①福祉サービスの基本方針と組織②組織の運営管理③適切な福祉サービスの実施に関する55項目からなる。児童福祉施設、障害福祉施設においては、サービス内容に関する追加基準が設けられている。利用者に対するアンケートも実施される。


受審する事業所は、事前に自己評価を行い、その結果を必要書類とともに評価機関に送付する。評価調査者は、こうした資料を事前に把握し、評価項目ごとにポイントを整理するなど、事前に分析しておく必要がある。評価調査者2名以上で、訪問調査を行う。事業所においては、評価調査者は、評価項目にしたがいながら、事業者に対する聞き取り、書類の確認、事業所内の見学、必要に応じて利用者からの意見聴取を行う 。


こうした評価結果をとりまとめ、事業所から公表の同意をとりつけ、評価結果の公表となる。公表されるべき内容は、福祉サービス第三者評価結果の公表ガイドラインによると、①第三者評価機関名②事業者情報③総評④事業者コメント⑤評価基準ごとの評価結果となっている。なお、都道府県によって、公表の様式にも若干の違いがみられる。


評価機関は、法人格をもっていることが必要である。したがって、法人の形態も多様であり、社会福祉協議会、公益法人、NPO、株式会社などが、こうした認証を受けて、評価機関となることが可能である。たとえば、東京都は、平成20年度4月現在、122の評価機関が認証を受けている。団体の性格も、株式会社やNPOなど様々である。認証の要件には、評価調査者や諸規程の整備、苦情解決の体制、第三者評価基準の遵守などがあり、福祉サービス第三者評価機関認証ガイドラインに定められている。全国規模の組織であっても、都道府県ごとに認証を受ける必要がある。



③ 介護サービスの基準と質

 
介護サービスの質を評価する視点としては、(1)構造(2)プロセス(3)結果という三つの視点から考えることができる。これらは、いずれも介護サービスの質の向上と関わっている。さらには、報酬単価や人材の質もサービスの質の向上のための主要なファクターであることはいうまでもない。


第一の構造については、サービスの質に関わる基準として、監査により質をコントロールする仕組みがあげられる。ここでの基準としては、すべての施設や事業に対し遵守を義務付ける運営基準、指定基準があげられる。その内容は、設備や職員配置などについての基準と契約内容の説明同意、ケアプランの作成、苦情解決制度などのプロセスに関する基準が含まれている。サービスの質の確保について、事業者に義務付ける部分が最低基準として法定され、監査によりサービスの水準を担保している。監査によって、基準違反が、確認されたならば、改善命令や指定の取消などの行政処分の対象となる。しかし、鑑査のシステムでは、事業者が法律上の最低基準を守っている限り、サービスの内容が劣っているとしても、サービスの内容の見直しを求めることはできない。実際には、最低基準や指定基準を守っている施設においても、サービスの質に優劣が存在する。


最低基準においては、施設設備・人員配置などの外形的な基準が大部分であり、サービス内容についての基準は十分に定められていなかった。同一の最低基準や報酬単価のもとでも、事業者の経営努力により、サービスの質が向上する余地がある。サービス評価の仕組みは、サービスの内容についての評価基準を定めて、事業者をよりよいサービス水準に誘導することがねらいである。つまり、事業者による任意の経営努力に委ね、サービスの水準の向上を求めるものといえる。したがって、評価結果は、サービスの質の向上について、経営者の任意の経営努力を評価するものである。


第二のプロセスに対する評価としては、福祉サービス第三者評価の仕組みがある。第三者評価の基準は、サービスの質を評価するものであるが、監査との棲み分けを意識し、サービス提供のプロセスを重視したものとなっている。なかでも、各施設におけるサービスのプロセスを標準化することが評価対象に入っているのが特徴である 。さらには、サービス提供の理念や管理者のリーダーシップ、人事管理や人材育成についても、評価基準が設けられている。質の高いサービスを提供するためには、事業者の運営体制はかくあるべきという考えから、これら基準が加えられている。このため、共通部分は、サービス・マネジメント体制の確立に重点が置かれている基準構成となっている。こうした内容は、法律により強制されて取り組むべき事柄ではない。


第三にサービスの結果を評価する方法もある。サービスの効果・結果や利用者の満足度をもって評価しようとするものである。福祉サービス第三者評価の基準づくりにおいて、評価対象に利用者満足を反映できないかという議論があった。しかしながら、福祉サービスや介護サービスの結果を、何について、どのような基準で図るかという問題がある。医療であれば、平均在院日数や死亡率など提供されて生ずる治療効果に着目し、評価することができる。しかし、福祉や介護サービスについては、いまだこうした提供されて生ずるサービス効果について統一的な評価基準は開発できていない 。


考えられるのは、利用者満足をサービス提供の結果とみて、評価することである。しかし、利用者の満足度を調査できても、この結果をサービスの質を公正に評価する尺度としては使うことには、慎重に考えざるをえない。第三者評価は「公正・中立」、「専門的」、「客観的」に行われるものであるという基本的な考え方と齟齬をきたしてしまうからである。福祉サービス第三者評価事業においても、利用者の認識を把握するためアンケートや聞き取りを行なう。これは、ヒアリングを行うこと等により、利用者の認識を把握し、第三者評価基準に基づく全体の評価結果をとりまとめる際の参考とすることとしたものである。利用者満足を評価に加えようとするものではない。また、利用者の苦情を拾い集めようとするものではない。


苦情については、苦情解決の仕組みが別途設けられている。苦情解決の仕組みには、サービスの質に関する基準は定められていないが、利用者側が契約およびサービスの質に対し不満をもった場合に苦情として申立てるわけであるから、サービスの質に対する利用者側の主観的ではあるが何らかの価値基準が存在すると考えられる。こうした価値基準に照らして、サービスの質について利用者側から「不満」「満足」といった評価がされる。こうした利用者側の不満の一部が苦情申立という行動にむすびつく。具体的な実際、苦情として申立てられる内容をみると、構造に関するもの、プロセスに関するもの、結果に関するものとすべての領域に及んでいる。個人の主観による基準であるから、最低基準はもちろん、業界標準を上回るものも少なくない。しかし、施設からみると、こうした対応が難しい苦情についても、何故できないかなど誠実に説明することが求められるようになっている。苦情解決の仕組みも、事業者に対しサービスの質を向上させる取り組みを促す機能をもっている。


こうした監査、第三者評価、苦情解決という三つの制度が、それぞれ性格の基準にもとづいて、サービスの質をチェックし、重層的かつ複合的に機能することで、サービスの質を向上させる仕組みとして出来上がっているのが特徴といえる。サービスのミニマム水準は公的規制に委ね、より望ましい水準をめざしたサービス改善の取り組みは、施設の側の経営努力と利用者評価に任せるという構造である。ただし、利用者が評価した結果を選択行動とむすびつけられない現状では、サービス評価も苦情解決に対する取り組みも、事業の基本的な性格から施設側の経営努力に期待するしかないのであるが、これがサービスの質についての事業者の取り組みにおいて、質の向上に熱心な施設とそうでない施設と、二極分化を招いている。


④ 第三者評価受審の意義


現在、全国すべての都道府県において、第三者評価事業の都道府県推進組織が設置されているが、都道府県により組織体制を整備し、第三者評価事業を開始した時期には随分とズレがある。早いところでは、東京都は平成14年から評価事業を開始しているが、多くの自治体は、厚生労働省による「福祉サービス第三者評価事業に関する指針」への対応の必要から、17年に第三者評価事業を始めている。その後も、18年、19年と都道府県ごとに推進組織の立ち上げが続いた。


都道府県において推進組織が整備されないと、評価機関の認証ができない。その都道府県においては、特別養護老人ホームなどが、第三者評価を受けようと考えても、受審の機会が与えられない。そのため当初は、受審件数が少なかった。しかし、こうした第三者評価実施体制の立ち上げが進むにつれて、第三者評価受審件数も、17年が1,678施設、18年が1,947施設、19年が2,835施設、20年が2,757施設と増えてきた。四ヵ年で、9,217施設に及ぶ。


特別養護老人ホームは、福祉施設全体では受審率は高い方であるが、四年間で●●施設、施設数全体の約●●%にすぎない。第三者評価を受審した施設においては、総じて第三者評価を受けた意義を認めている。すなわち、自ら提供するサービスの質を評価し、組織上の課題を把握した上で、組織外の専門の評価機関による客観的な評価を受けることにより、サービスの質の向上について多くの気づきを得られていると好評である。受審のメリットとしては、①現状の把握、どこに改善するべき課題があるかが把握できる②評価を受けるための事前の準備が、職員の意識啓発、改善に向けたアクションのきっかけづくりとなる③評価結果から改善に取り組むべき方向が明確になる④利用者・家族、地域からの信頼づくりにつながる、などが考えられる。サービスの質の向上に積極的に取り組む施設を増やすためにも、第三者評価事業のさらなる普及・定着が必要である。


大阪府の推進組織では、2007年に受審した事業者に対しアンケート調査を行なっている。これによれば、受審した特別養護老人ホームの大部分が、自己評価、訪問調査から「気づきがえられた」と回答し(11施設が「はい」・「どちらかといえばはい」と回答/全体12施設)、評価によって「サービスの改善や向上のための具体的な方策がみえてきた」(9施設が「はい」・「どちらかといえばはい」と回答/全体12施設)第三者評価を受審したことが「事業者のサービスや経営、質の向上に役立った」(12施設が「はい」・「どちらかといえばはい」と回答/全体12施設)と答えている。これからみても、少なくとも受審した施設からは、サービスの質の向上について、第三者評価を受審する意義があるものと認められていることがわかる。

⑤ 第三者評価の推進にむけて

こうしたメリットを実感できない理由としては、幾つか検討するべき課題が存在するように思われる。まず、特別養護老人ホームについて、第三者評価が普及しない一つの要因として、介護サービス情報公表システムの存在があげられる。毎年、全ての介護サービスの事業者に対し、情報の公表を義務付けている。事業者からすれば、介護サービスの情報公開に応じ、さらに第三者評価の受審までとても手が回らないというのが本音であろう。


介護サービス情報公表制度は、介護サービスの事業者が行っているサービスの内容や運営状況など特定の事項について訪問調査を行い、事実の確認上、明らかになった結果を情報開示するものである。事業者に対し、利用者のサービス選択に必要な情報の提供を義務付けることがねらいである。確認の対象となる事項は一部重なるものの、福祉サービス第三者評価のように、福祉サービスの質の向上のため望ましい質の基準を定め、専門の第三者機関が目標達成度合いをA、B、Cと評価し、事業者に対しより望ましい水準に向って、サービスの質の向上を促す仕組みとは、事業の目的や性格が違っている。


介護サービスの情報を公表してもなお、特別養護老人ホームにおいては、自らの組織の提供するサービスな事業内容についての課題を把握し、サービス質の向上の努力が求められる。また、両システムは並存可能である。たとえば、事業者の負担を軽減するのであれば、制度の運用において、同じ評価機関が同じ日に一括して二つの訪問調査を行うなどの工夫が可能であろう。事業者側の心理的、経済的、また業務上の負担は軽減される。


第二に、第三者評価の基準や評価方法に対して、不満をもつ事業者も少なくない 。特別養護老人ホームに対する第三者評価の基準は、前述のように①福祉サービスの基本方針と組織②組織の運営管理③適切な福祉サービスの実施について評価する。これは、サービスの質を向上させる組織体制が確立されているか、適切なサービス提供のプロセスが確立しているかを評価しようとするものである。訪問評価者は、主として、こうした取り組みを裏付ける文書や記録があるか、マニュアルが整備されているかについて確認し、評価するという手法をとる。


これに対して、受審に消極的な施設の側からは、マニュアルや記録の確認ではなく、もっと具体的なサービスの内容や実践をみてほしいという意見も存在する。評価基準の検討においては、当初、全ての種別の施設や事業に共通する基準が必要という考えから、基準の内容を①福祉サービスの基本方針と組織②組織の運営管理③適切な福祉サービスの実施に絞り込んだ。特別養護老人ホームなど特定の福祉施設において提供されている具体的なサービス内容についての基準項目は、外された。その後、障害者の福祉施設や保育所などは、共通基準に加えて具体的なサービス内容についての基準を追加し、サービス内容についても評価している。これに対して、特別養護老人ホームの具体的なサービス内容についての評価基準はつくられていない。


共通基準だけでも、施設のサービスの質を向上させる取り組みを評価できるという意見もある。しかし、保育所などの第三者評価の実践を研究してみると、具体的なサービス内容に関する追加基準があるために、現場の保育士が自らの実践を振り返るきっかけとなっていたことがわかった。私自身、当初は共通項目だけで十分と考えていたが、第三者評価の受審をきっかけにして施設において現場の職員を巻き込みサービスの質の向上の取り組みをダイナミックに展開することを期待するならば、追加基準の存在意義は大きいと考えている。したがって、特別養護老人ホームについても、認知症ケアの実践、ホスピスケア、医療・看護との連携など、現場の職員が関わる具体的サービス内容について、評価の対象に加えることが望ましい。そうすることで、評価方法においても、利用者の様子や施設職員によるサービス提供の場面の観察や聞き取りのウェートが増すことであろう。


最後に、事業者を第三者評価の受審へと促すようなインセンティブが制度上十分に組み込まれていない。現行制度では、第三者評価を受審し、結果公表に応じた場合には、措置費の弾力運用が認められている。しかし、特別養護老人ホームについては、契約施設であり、会計間の資金移動は認められているので、こうした措置費の弾力運用の取り扱いが、受審のインセンティブとならない。特別養護老人ホームに限らず、すべての施設に対し福祉サービスの質の向上をもとめ、第三者評価事業のさらなる普及・定着をめざすならば、あらためてインセンティブについての考え方を検討し直す必要がある。本来は、サービスの質を向上させ、地域の利用者から信頼され選択されることが、何よりも事業者にとってサービス評価を受審するメリットでありインセンティブとなると考えていた。しかし、こうした立場から、第三者評価を受審する施設の割合は、業界のトップリーダー、三割くらいであるのかもしれない。施設全体の半数を超えるほどまで、受審件数をつみ上げ、第三者評価をさらに普及させるためには、これまでとは違う奨励措置の検討が必要ではなかろうか。


たとえば、東京都は、受審実績が著しく高い。全国の受審件数の約三分の二を東京都の施設によって占められている 。こうした受審実績があげられている理由のひとつに、積極的な受審の奨励措置がとられていることが、あげられる。すなわち、都独自の「東京都特別養護老人ホーム経営支援補助金」交付の要件のひとつに、第三者評価の受審を求めている。これは、少なくとも三年に一回第三者評価を受審することを条件としており、受審しない場合は補助金を減額するものとしている。特別養護老人ホーム以外の福祉施設においても「東京都民間社会福祉施設サービス推進費補助」の交付要件のひとつに、第三者評価の受審を求めている。受審しなければ、同様に減額される。こうした補助金の交付にあたって、施設側のサービスの質の向上の努力・実績を考慮し、交付額に差を設けようとするのである。また、東京都は、特定事業所集中減算をしない条件のひとつに、第三者評価の受審を定めている 。


また、医療機能評価機構が行う病院機能評価では、受審する病院の数が伸びているが、病院機能評価を受審していることが、緩和ケア病棟入院料の施設基準、緩和ケア診療加算の施設基準に反映され加算対象となっているなど、診療報酬上のインセンティブが与えていることも要因のひとつである。福祉サービス第三者評価事業も、受審することが目的とならないように配慮しながらも、第三者評価を受審しサービスの質の向上に取り組む活動や成果に対する奨励措置が考えられてよい。受審のきっかけはなんであれ、受審準備のプロセスが、サービスの質の向上によい効果をもっていることに気づくであろう。


3 社会福祉法第七十八条第一項、経営者の役割について

社会福祉法第七十八条は、社会福祉事業の経営者に対し「福祉サービスの質の向上のための措置」をとることを努力義務として定めている。経営者は、社会福祉法第五条「福祉サービスの提供の原則」にもあるように、利用者の意向を十分に尊重し、サービスを提供することが求められている。さらには、社会福祉法第七十八条は、「サービスの質の評価を行うこと」により、「常に福祉サービスを受ける立場にたって良質かつ適切な福祉サービスを提供するように努める」義務を定めている。経営者は、どのようにして、こうした義務を果たしていくべきなのであろうか。


 サービス評価の評価基準にもあるように、サービスの質の向上のためには、経営者が、自らの基本方針を現場組織の末端にいたるまでいかに浸透させるが大切である。現実の利用関係では、援助する側の都合が、個々の利用者の立場に優越する。措置から契約へと社会福祉の基礎構造が転換しても、現実の力関係は、援助関係において、決して対等などではない。現実の援助関係を対等なものにし、質の高いサービスを提供するには、施設における職員の意識のみならず業務管理のあり方自体を変革する必要がある。サービスの質を向上させるためには、経営者のリーダーシップは欠かせない。


特別養護老人ホームなど社会福祉施設の経営者は、「福祉サービスの提供の原則」や「福祉サービスの質の向上のための措置」をどのように受け止めたのであろうか。社会福祉法人のなかには、措置から契約への構造転換など外部環境の変化に自らの経営組織を対応させるため、あらためて経営理念を明確にし、中長期の事業計画や事業戦略を検討するなどし、組織が向かうべき方向を修正する法人もあらわれた。実際、法人の経営理念として、「利用者本位の質の高いサービスの提供」を掲げる法人も少なくない。


 しかし、理念を掲げているからといって、利用者本位のサービスの提供を実践できているとは限らない。形式的に掲げているにすぎないようにみえる法人や施設も多数存在するように思われる。介護事業のように、国民のニーズが拡大し、市場が安定的に成長している状況においては、それでも経営は成り立つのであろう。しかし、利用者の視点から自らのサービス提供はどうあるべきかについて検討している施設も存在する。ここで大切なのは、こうした経営理念を組織においてどのように実践するかである。経営者自らの実践なくしては、組織構成員の意識改革はありえない。


利用者本位のサービスの提供をめざし、質の向上に努めるという経営理念をどのようにして組織に浸透させることができるか。ある経営者からの聞取りからは、次のように実践していると説明を受けた。まず、第一に、経営者自ら職員に対し、なぜ利用者本位のサービスの提供が大切なのかを繰り返し、説き続けることが大切である。たとえば、ある施設長は、職員に対して、エンドユーザーは職員自身であるとして、「自分の親をうち施設に入れたいと思うか」「入居していただいて最後に親孝行ができたと思えるか」と問い続けている。利用者本位の考え方が、法人経営のベースと考えるからである。

第二に、職員にも「そうした施設になるにはどうしたらよいか、利用者・家族の視点から意見を述べてほしい」と募ることが大切である。職員のなかにも、日ごろから心の中で「こうしたら、もっと利用者から喜ばれるのに」と思っている人は多い。こうした意見を業務の見直しに反映させる仕組みをつくる取り組みが必要である。そして、第三に、こうした利用者本位のサービを提供するための業務改善をひとつひとつ実践し、積み上げていくことで、利用者からも感謝される、それによって職員の仕事に対するモチベーションが高まる。こうしたことが、経営者の安心・満足にもつながるという良い経営の循環がうまれることをねらっているという。


 このことからも明らかなように、職員による利用者への関わり自体が、法人が提供する福祉サービスである。現実の援助する側と援助される側との関係において「経営理念」が伝わることが大切である。言い換えると、実際に職員により提供されている福祉サービスこそが、経営理念の具体的表現とみるべきである。経営者や管理者は、こうした視点から現場にたって、自らかがける経営理念が利用者・家族に「価値あるもの」として伝わっているか、日々確認する努力が必要であろう。利用者家族から信頼され、事業を継続的、持続的そして発展的に経営するためにも、こうした経営者の努力が大切といえる。また、こうした経営者の取り組みこそが、社会福祉法78条が求める経営者のあり方であると考える。福祉サービス第三者評価の受審についても、経営者が自らの組織が利用者本位というベクトルからずれていないか客観的に確認できることに意義があると考える。