2026年1月12日月曜日

保育リスクマネジメント実践編

 第二回 リスクマネジメントは「攻めの戦略」

子どもの育ちと命を両立させるリーダーシップ~

 

 保育の質の向上が求められる時代

 

保育現場を取り巻く環境は厳しさを増しています。こども家庭庁でも、人口減少・少子化が進むなかで、待機児童解消のための量的な整備から保育の質の向上へと転換しつつあります。都市部の保育園や認定こども園においても、年度当初に定員を充足できない園も出てきています。

 

保護者から選ばれるためにも、園にとって子どもの豊かな暮らしを保障するため保育の質を向上させることは、最も重要な課題となっています。安全品質を上げることも、そのテーマの一つです。いいかえれば、子どもの育ちと命を両立させる運営が求められています。

 

リスクマネジメントの実践とは、法令を遵守し行政の監査に対応することのみならず、社会や保護者から信頼されるための安全品質を確保する「攻めの戦略」として捉えなおす必要があります。

 

「すべてのケガをゼロにする」という誤解を解く

 

保育の中には、常にケガのリスクが潜んでいます。しかし、ここで大切なのは、安全品質を高めるといっても、「すべてのケガをゼロにする」という不可能な目標を掲げないことです。実際、保育中のすべてのリスクをゼロにすることは不可能です。

私はかつて息子を保育園に預けていたころ、「保育はサービスである。保育園は、朝に預かった状態で、夕方保護者にお渡しするには、当たり前。ケガは許されないし、そのことについては、説明と謝罪があって当然」「同じケガが繰り返されるなど、もってのほか」と考えていました。ケガをしても文句はいいませんが、サイレントクレーマーでした。しかし、限られた人数の保育士で、あらゆるケガをゼロにするのは、現実離れしている理想論だったと反省しています。

 リスクマネジメントを研究するようになったのは、子どもが小学生になってからです。現在では、保育中のリスクを2つに分けて考えるようにしています。

 

●「許容できるリスク」

 一つは「許容できるリスク」です。日常の遊びの中で起きる小さな擦り傷や打撲などがこれにあたります。ケガにつながりかねない遊びや体験自体が、子どもが自分の体の限界を知り、危険を学ぶための「成長の糧」でもあります。

 したがって、事故があったからといって、遊びを止めてはいけません。むしろ、安全な保育とは何かと考えつつ、あるべき保育の形を大切にし、保育の質を上げることで対応します。これが、日常のあるべき保育を丁寧に回すことで、リスクを下げるということです。

 ●「絶対に許容できないリスク」

 他方、「重大事故のリスク」は「許容できないリスク」です。たとえば、窒息、溺水、置き去りといった命に関わる事故や、重い後遺症を残す事故です。

 

 重大事故につながる兆候は、ほとんどの場合、軽微な事故やヒヤリハットとして現れています。重大事故が起きてから対応を見直すのでは、手遅れです。ヒヤリハットや軽微な事故で済んでいるうちに、原因と対策を検討してください。必要があれば従来大切にしてきた保育のあり方を見直してでも、事故防止を最優先しなければなりません。

 たとえば、子ども家庭庁に報告される事故のなかでも骨折事故が最も多いのですが、なかには頭部の骨折など重大な後遺症が残るケガも含まれています。大型遊具などの高所からの転落事故のリスクは、危機管理の対応が必要です。

園でのリスクマネジメントでは、「許容できるリスク」と「絶対に許容できないリスク」とを、園として線引きする必要があります。事故につながる遊びをすべて禁止では、保育の質を下げてしまいます。リスクマネジメントといっても、リスクの性質によってアプローチが異なるのです。

 園において存在する様々なリスクに対し、線引きするのは、園長の判断にかかっています。

 

「安全管理」と「危機管理」の違い

 

「危機管理」の定義についても再確認しましょう。

 「安全管理」とは、日常の安全な保育の実践をめざすのに対し、「危機管理」とは、子どもの死亡事故など「最悪の事態が起きた時」を想定した活動です。

 危機管理は「最悪を想定する力」、安全管理は「日常の保育を丁寧に回す力」と考えます。いずれにおいても、園長の仕事は、事故が起きてから動くことではなく、起きなかった理由を作り続けることです。

 

区分

定義・目的  

求められる力

安全管理

日常の安全な保育の実践   

日常を丁寧に回す力  

危機管理

死亡事故などの「最悪の事態」への備え  

最悪を想定する力  

 

危機管理に必要なのは「言語化」と「訓練」

 

みなさんの園で子どもが食べ物を詰まらせたなどの事故が起きたら、職員は迷わず動けますか?

 危機管理で重要なのは、迅速かつ適切な対処のための手順が「言語化」され、「訓練」されていることです。園長にとって大切なことは、「まさか」は必ず起きると考えることです。したがって、園長の役割は、その時に保育士がパニックにならず、子どもの命を救う行動をとれるように準備をすることです。

 必要な体制を整えておくことが、園長の仕事です。日頃から園長先生が「危機管理ガイドライン」を策定し、繰り返しシミュレーションを行っているかどうかにかかっています。

 

安全管理は「遊びを止めない」こと

 

安全管理とは、遊びを止めないで、リスクを下げる視点をもって、日ごろの保育を継続することです。

 なお、「園庭での転倒事故が続いていますから、注意してください」と呼びかけるだけでは、リスクを下げる効果が小さいと思います。事前事後において保育の環境を整える、保育中の見守りの配置を工夫するなど、具体的な「仕掛け」によって、子どもたちの挑戦を支えるのがプロの保育士の仕事です(参照:遊びと安全のチェックリスト 筆者作成)。

 

令和の時代に求められる園のリーダーシップ

 

重大事故のリスクは、多くの場合、軽微な事故やヒヤリハットの中に兆候が現れています 。こどもの命が危険にさらされる事態を防ぐには、ヒヤリハットの段階で原因を検討し、時には従来の保育のやり方を見直してでも、事故防止を最優先する決断が必要です 。

 「危ないからさせない」という消極的な保育は、子どもの育ちを奪います。一方で、「なんとかなるだろう」という過信は、子どもの命を奪います。

 この狭間で、エビデンスに基づいた対策を講じ、チームで安全を創り上げていく。それこそが、令和の時代に求められる園のリーダーシップです。

 重大事故の防止と質の高い保育の実践、これを車の両輪として回していくのが、令和の時代に園長に求められるリーダーシップです。

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