2026年1月12日月曜日

保育リスクマネジメント実践編

 第3回:「わかっている」の先へ 

― 「気をつけて」を卒業し、プロの「根拠」を共有する


いつも注意しているのに・・・


「いつも注意しているのに、なぜ……」 重大事故が起きた際、管理者が抱く最も切実な疑問かもしれません。しかし、ここには大きな落とし穴があります。管理者が「注意しろと言ったから大丈夫だ」と考えてしまうこと自体が、実はリスクを放置する原因になっている場合があるのです 。

今回は、ガイドラインの文言を繰り返すだけでは届かない、保育者の「納得感」と「行動」を変えるアプローチについて考えます。


管理者が陥る「伝えたつもり」の罠


多くの園長や主任は、会議や朝礼で「事故に気をつけてください」と呼びかけます。しかし、現場の保育者からすれば、それは「言われなくてもわかっていること」です 。


「注意してください」という言葉は、受け手にとっては抽象的すぎて、具体的な行動の修正に繋がりません 。管理者が「伝えた」ことで満足し、現場の「個人の注意」に丸投げしてしまう状態は、リスクマネジメントが機能していない証拠でもあります。事故は、決して不注意だけで起きるのではなく、「注意していたのに、防げない構造」の中に潜んでいるからです 。


「わかっている」という心理的ブレーキを外す

ベテランほど、リスクの存在は知識として知っています 。しかし、「自分たちの園ではいつも通りだから大丈夫だろう」という心理(正常性バイアス)が働き、無意識にリスクを過小評価してしまいます 。

ここで大切なのは、ガイドラインを復唱させることではありません。保育者の胸にそっと落ちるような、「リスクを自分事として捉え直す言葉」です。


●「なぜ防げなかったのか」ではなく「なぜ事故が起きなかったのか」を語る: 事故が起きていないのは、誰かの「小さな工夫」があるからです 。その具体的なファインプレーを言語化して共有しましょう 。


●「最悪を想定する力」を育てる: 「もし今、ここで子どもが倒れたら?」という問いかけを日常の会話に混ぜ、反射的に動けるイメージを共有します 。


「気をつける」を「仕組み(仕掛け)」に変換する

「気をつけて見る」「注意する」という精神論を、具体的な「とるべき具体的な行動」⇒「保育の仕掛け」に置き換えてみてください 。


●「見守りを強化」ではなく「立ち位置を1メートル下げる」 

: 視界を広げるための物理的な指示 。

●「食事に注意」ではなく「飲み込むまで次のスプーンを運ばない」

   : 動作としてのルーティン化 。

●「環境に配慮」ではなく「この遊具の下には必ずマットを敷く」 

: 誰がやっても同じ結果になるルール 。

 

こうしたOJTなどをつうじた、具体的な「仕掛け」こそが、職員のキャリアと人生を守る「盾」となります 。ベテランの保育士には、OJTトレーナーとして、若い保育士の育成に当たらせる上で、こうした行動の模範を示し、なぜこの行動が必要なのかを説明することで、正常性バイアスの罠から逃れることができます。


 プロとして自信を持って「安全」と言い切るために

「危ないからさせない」という消極的な判断は、子どもの成長の機会を奪ってしまいます 。一方で、「いつも通りでなんとかなるだろう」という過信や、「注意したから大丈夫」という管理者の思い込みは、事故の再発を招き、保護者からの不信感に繋がりかねません 。


この狭間で、プロとして自信を持って「この遊びは、こう工夫しているから安全だ」と言い切るために、共通のチェックリストを活用しましょう 。根拠に基づいた対策を講じることこそが、令和の時代に求められるリーダーシップです 。

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保育リスクマネジメント実践編

 第二回 リスクマネジメントは「攻めの戦略」

子どもの育ちと命を両立させるリーダーシップ~

 

 保育の質の向上が求められる時代

 

保育現場を取り巻く環境は厳しさを増しています。こども家庭庁でも、人口減少・少子化が進むなかで、待機児童解消のための量的な整備から保育の質の向上へと転換しつつあります。都市部の保育園や認定こども園においても、年度当初に定員を充足できない園も出てきています。

 

保護者から選ばれるためにも、園にとって子どもの豊かな暮らしを保障するため保育の質を向上させることは、最も重要な課題となっています。安全品質を上げることも、そのテーマの一つです。いいかえれば、子どもの育ちと命を両立させる運営が求められています。

 

リスクマネジメントの実践とは、法令を遵守し行政の監査に対応することのみならず、社会や保護者から信頼されるための安全品質を確保する「攻めの戦略」として捉えなおす必要があります。

 

「すべてのケガをゼロにする」という誤解を解く

 

保育の中には、常にケガのリスクが潜んでいます。しかし、ここで大切なのは、安全品質を高めるといっても、「すべてのケガをゼロにする」という不可能な目標を掲げないことです。実際、保育中のすべてのリスクをゼロにすることは不可能です。

私はかつて息子を保育園に預けていたころ、「保育はサービスである。保育園は、朝に預かった状態で、夕方保護者にお渡しするには、当たり前。ケガは許されないし、そのことについては、説明と謝罪があって当然」「同じケガが繰り返されるなど、もってのほか」と考えていました。ケガをしても文句はいいませんが、サイレントクレーマーでした。しかし、限られた人数の保育士で、あらゆるケガをゼロにするのは、現実離れしている理想論だったと反省しています。

 リスクマネジメントを研究するようになったのは、子どもが小学生になってからです。現在では、保育中のリスクを2つに分けて考えるようにしています。

 

●「許容できるリスク」

 一つは「許容できるリスク」です。日常の遊びの中で起きる小さな擦り傷や打撲などがこれにあたります。ケガにつながりかねない遊びや体験自体が、子どもが自分の体の限界を知り、危険を学ぶための「成長の糧」でもあります。

 したがって、事故があったからといって、遊びを止めてはいけません。むしろ、安全な保育とは何かと考えつつ、あるべき保育の形を大切にし、保育の質を上げることで対応します。これが、日常のあるべき保育を丁寧に回すことで、リスクを下げるということです。

 ●「絶対に許容できないリスク」

 他方、「重大事故のリスク」は「許容できないリスク」です。たとえば、窒息、溺水、置き去りといった命に関わる事故や、重い後遺症を残す事故です。

 

 重大事故につながる兆候は、ほとんどの場合、軽微な事故やヒヤリハットとして現れています。重大事故が起きてから対応を見直すのでは、手遅れです。ヒヤリハットや軽微な事故で済んでいるうちに、原因と対策を検討してください。必要があれば従来大切にしてきた保育のあり方を見直してでも、事故防止を最優先しなければなりません。

 たとえば、子ども家庭庁に報告される事故のなかでも骨折事故が最も多いのですが、なかには頭部の骨折など重大な後遺症が残るケガも含まれています。大型遊具などの高所からの転落事故のリスクは、危機管理の対応が必要です。

園でのリスクマネジメントでは、「許容できるリスク」と「絶対に許容できないリスク」とを、園として線引きする必要があります。事故につながる遊びをすべて禁止では、保育の質を下げてしまいます。リスクマネジメントといっても、リスクの性質によってアプローチが異なるのです。

 園において存在する様々なリスクに対し、線引きするのは、園長の判断にかかっています。

 

「安全管理」と「危機管理」の違い

 

「危機管理」の定義についても再確認しましょう。

 「安全管理」とは、日常の安全な保育の実践をめざすのに対し、「危機管理」とは、子どもの死亡事故など「最悪の事態が起きた時」を想定した活動です。

 危機管理は「最悪を想定する力」、安全管理は「日常の保育を丁寧に回す力」と考えます。いずれにおいても、園長の仕事は、事故が起きてから動くことではなく、起きなかった理由を作り続けることです。

 

区分

定義・目的  

求められる力

安全管理

日常の安全な保育の実践   

日常を丁寧に回す力  

危機管理

死亡事故などの「最悪の事態」への備え  

最悪を想定する力  

 

危機管理に必要なのは「言語化」と「訓練」

 

みなさんの園で子どもが食べ物を詰まらせたなどの事故が起きたら、職員は迷わず動けますか?

 危機管理で重要なのは、迅速かつ適切な対処のための手順が「言語化」され、「訓練」されていることです。園長にとって大切なことは、「まさか」は必ず起きると考えることです。したがって、園長の役割は、その時に保育士がパニックにならず、子どもの命を救う行動をとれるように準備をすることです。

 必要な体制を整えておくことが、園長の仕事です。日頃から園長先生が「危機管理ガイドライン」を策定し、繰り返しシミュレーションを行っているかどうかにかかっています。

 

安全管理は「遊びを止めない」こと

 

安全管理とは、遊びを止めないで、リスクを下げる視点をもって、日ごろの保育を継続することです。

 なお、「園庭での転倒事故が続いていますから、注意してください」と呼びかけるだけでは、リスクを下げる効果が小さいと思います。事前事後において保育の環境を整える、保育中の見守りの配置を工夫するなど、具体的な「仕掛け」によって、子どもたちの挑戦を支えるのがプロの保育士の仕事です(参照:遊びと安全のチェックリスト 筆者作成)。

 

令和の時代に求められる園のリーダーシップ

 

重大事故のリスクは、多くの場合、軽微な事故やヒヤリハットの中に兆候が現れています 。こどもの命が危険にさらされる事態を防ぐには、ヒヤリハットの段階で原因を検討し、時には従来の保育のやり方を見直してでも、事故防止を最優先する決断が必要です 。

 「危ないからさせない」という消極的な保育は、子どもの育ちを奪います。一方で、「なんとかなるだろう」という過信は、子どもの命を奪います。

 この狭間で、エビデンスに基づいた対策を講じ、チームで安全を創り上げていく。それこそが、令和の時代に求められる園のリーダーシップです。

 重大事故の防止と質の高い保育の実践、これを車の両輪として回していくのが、令和の時代に園長に求められるリーダーシップです。

2026年1月11日日曜日

簡単なプロフィール

 

タイトル:現場の皆様と共に、これからの福祉経営を考える「研究室」へ

大阪公立大学名誉教授の関川芳孝です。

私はこれまで、社会福祉法制や福祉経営の研究に長年携わってまいりました。しかし、大学の教壇で培った理論以上に大切にしたいのは、いまこの瞬間も子どもたちの命を預かり、現場の最前線で奮闘されている皆様の「声」です。

最近、全国での講演を通じて痛感していることがあります。それは、「事故を防ぐためのルール」だけでは、現場は守りきれないということです。職員のメンタルヘルス、心理的安全性の高い組織づくり、そして何より「人を育てる」という視点。これらが組み合わさって初めて、生きたリスクマネジメントが完成します。

このブログと研究室(公式LINE)では、https://lin.ee/va2H24W

  • 講演の準備段階で生まれた**「最新のアイディアや問題意識」**の共有

  • 法的な視点と現場の心理を融合させた**「新しい経営のヒント」**

  • 皆様と一緒に、現場のリアルな**「経営問題を解決する対話」**

を目的としています。 学術的な正解を提示するだけでなく、皆様の「同志」として、共に福祉の未来を考えたい。そんな想いで知見を「お裾分け」していきます。どうぞ気軽な気持ちで、この研究室の扉を叩いてください。


【略歴】

  • 関川 芳孝(せきかわ よしたか)

  • 大阪公立大学 名誉教授(現代システム科学研究科 客員研究員)

  • 専門:社会福祉法制論、福祉経営

  • 神戸大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学後、琉球大学、北九州大学、カリフォルニア大学バークレー校(客員研究員)を経て、大阪府立大学(現・大阪公立大学)教授を歴任。

  • 現在は、国や自治体の委員や保育施設等での講演活動を通じて、リスクマネジメントと人材育成の両立を支援している。

    内閣府 教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員

    厚生労働省近畿厚生局 近畿地方社会保険医療協議会会長

    全社協福祉サービスの質の向上推進委員会委員

    全国保育協議会保育所長専門講座運営委員会委員



保育リスクマネジメント実践編

 

定年退職し、あらためて、保育のリスクマネジメントについて連載をし、日ごろ考えていることを少しずつ述べていきたいと思います。教育保育施設の園長、主任など管理者に向けた連載になります。


【連載】保育の質を高めるリスクマネジメント


第1回:なぜ「ベテラン」の現場で事故は起きるのか? ― 職員を守るためのリスクマネジメント

教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議が、今年も開催されます 。そこでは死亡事故の検証や報告が行われますが、資料に目を通すたび、「なぜ防げなかったのか」「体制は整っていたのか」という悔しい思いが込み上げます 。

保護者にとって、安心して子どもを預けられることは大前提です 。園には安全を見守る体制を整える当たり前の義務がありますが、報告される事故の多くは、その「当たり前」が欠落していた結果であることが少なくありません 。

専門性が高いからこそ陥る「心理的落とし穴」

万が一、命に関わる事故が起きれば、保護者の悲しみは計り知れません 。そして同時に、現場にいた保育者もまた、過度な自責の念に駆られ、離職に追い込まれるなど、その人生に深い影を落とします 。

ここで注目すべきは、事故を起こしたのが決して「不真面目な保育者」ではないという点です 。むしろ経験豊富で、責任感があり、園でも頼りにされているベテラン保育者のもとでも事故は発生しています 。

ベテランほど、以下のような心理傾向に陥りやすいことが分かっています。

 ① 異常な兆候があっても「いつも通りだ」「大丈夫だろう」とリスクを過小評価してしまう 。

 ② 知識や経験があるがゆえに、リスクを「わかっている」つもりでスルーしてしまう 。

 ③「まさか」が起きた後になって初めて、現実のリスクに気づく 。


リスクマネジメントは職員を守る「盾」

重大事故が起こると、園には、マスコミや保護者に対して「普段からどのような体制を取っていたか」を説明する責任があります 。

真のリスクマネジメントとは、単に事故を防ぐことだけではありません。「なぜその事故が起きなかったのか」という根拠を、論理的に説明できる力を実装することにあります 。

また、リスクマネジメントの徹底は、子どもたちの命を守ることはもちろん、「職員のキャリアと人生を守るための盾」でもあります 。ヒヤリハット報告を集める上でも、この視点を、ぜひ現場の職員一人ひとりに伝えていただきたいのです 。


リスクを「意図的に意識する」体制づくり

日ごろ事故が起きていなくても、重大事故に繋がる潜在的なリスクは確実に存在しています 。これを見逃さず、意図的に意識して準備を整えることが、園の組織的なリスクマネジメントです 。

そのための第一歩が「ヒヤリハット報告」の活用です。単なる記録作業にせず、「自分ならどう防ぐか」を全員が主体的に考えるきっかけにしていきましょう 。


この活動の裏話や、経営に役立つ資料のお裾分けは、こちらの公式LINE(関川福祉経営研究室)で配信しています。

https://lin.ee/va2H24W


2012年5月25日金曜日

久しぶりの投稿です。

しばらく更新しておりませんでした。 tuitterなどもあり、ブログが放置されて、ふと可哀想になったしだいです。 久しぶりに、スタバでコーヒー頂いております。


東大阪市社会福祉審議会

本日は、午後から東大阪市の社会福祉審議会に参加します。 中核市である東大阪市は、社会福祉法に基づき社会福祉に関する事項を調査審議するため、地方社会福祉審議会を設置しています。 東大阪市社会福祉審議会の会長、老人福祉専門分科会の委員長をさせていただいております。 老人福祉専門分科会では、介護保険事業計画作成などの審議に関わってきました。 本日の審議会は、24年度最初の審議会ということもあり、各計画の進捗状況を担当課から説明を受けること。 障害福祉と介護保険・高齢者福祉について、中長期的な課題を取り上げて、審議することになっています。 事前の打ち合わせでは、地域包括支援センターの運営課題、障がい者の地域移行について、取り上げたいと説明を受けています。 どのような意見が出るか楽しみです。


 社会福祉法人の理事会で監事報告


審議会終わり次第、神戸に移動し、社会福祉法人の理事会に出席します。 こちらでは、監事をさせていただいております。 監事報告をしなければなりません。 監査の結果では、法律違反などはありませんでしたが、幾つか事業運営上の課題が確認されています。 理事長の業務執行をチェックするのも監事の仕事です。 理事会で報告されている事業計画が適正に実施されているかを確認します。 栄養士の業務について、説明を受けながら、質問させていただくだけでも、組織上の課題が見えてきます。

2011年11月8日火曜日

保育リスクマネジメント講座をします

大阪府立大学、地域福祉研究センターは、堺市保育リスクマネジメント研究会と共同し、保育士を対象とした「保育リスクマネジメント講座」を企画しました。

3回シリーズで、事故事例に学びながら、保育所における事故防止の課題 について考えます。

公立保育所の保育士さんと民間保育園の保育士さんとの共同の学びの場をもちたいと考えています。


夕方の遅い時間ですが、一緒にに学んでみませんか。

関川がわかりやすく講義します。








2011年10月27日木曜日

福祉サービス第三者評価とは何か

◆「サービス評価とは何か」




「サービス評価とは何か」いう問いに対して、明解に答えることは難しい。というのも、サービス評価といいながら、サービス評価のねらい、評価機関の性格、評価基準、さらには評価方法など、実に様々なものがある。しかも、従来は、高齢者の分野、障害者の分野、児童の分野いずれも、異なるサービス評価の仕組みがつくられていた。

また、第三者が福祉サービスの内容を評価する仕組みは、いわゆる「第三者評価」ばかりではない。第三者が福祉サービスの内容をチェックする仕組みとしてみると、類似の機能をもつものが存在する。

たとえば、行政の監査も、会計および職員配置など最低基準と関わって、福祉サービスの質を確保するものといえる。そこで、監査担当職員は、監査マニュアルに従い、福祉サービス提供のあり方についても問題はないか、点検してきた。

福祉オンブズマンなどのように、第三者が福祉施設を訪問し、サービスの内容や利用者の意見を聴取する仕組みにおいても、第三者が福祉サービスの内容をチェックする機能をもつ。

また、苦情解決の仕組みも、利用者や家族から利用のあり方やサービスの質についての苦情があり、苦情解決の委員会が必要と考えれば、委員が施設を訪問調査し、問題となっているサービスの内容について聞き取りをする。これらも目的は違うが、苦情解決のプロセスにおいて、福祉サービスの内容について第三者がチェックすることになる。

また、利用者の家族や地域の方々が、福祉サービスを選択するための情報を収集する目的で勉強会やサークルを立ち上げ、アンケートなどの方法により、協力してくれる施設から福祉サービスについての必要な情報を収集し、サービス選択に必要な情報を発信する例もみられる。

これに対して、福祉施設を経営する事業者団体においても、サービス評価基準を定め、調査員が会員施設に対し訪問調査し、評価内容を公表するという活動も存在します。多くの場合、これらは事業者による自己点検の一環として位置づけられているが、「第三者」の意義を「当該サービスを提供している当事者以外の者」と考えれば、これも第三者が福祉サービスを評価する取組みとして位置づけることも可能かと思われる。

既にISOの認証を受けている福祉施設もみられる。ISOも、広い視野からみれば、福祉施設が受審するかぎりでは、福祉サービスに対する第三者による評価といえる。さらには、利用者満足度調査も、サービスの質を評価する機能をもつものと位置づけることもできるであろう。

さらにいえば、介護事業に対する情報開示の標準化の取組も、第三者が訪問しサービスの体制などについて事実の確認し、その内容を公表するというものであるから、サービス評価に極めて類似する仕組みとなっている。

こうした状況を踏まえ考えると、「サービス評価」といっても、これに対する認識は、「何をイメージするか」によって、人によってかなりズレがあるのは、当然のことである。また、サービス評価といわれているものでも、サービス評価の実施機関によって、活動の目的や活動内容も様々であった。実際、評価内容も評価結果の取りまとめ方法もかなりの違いがみられた。

国の側では、福祉サービスの「第三者評価」について、「社会福祉法人等の提供するサービスの質を事業者及び利用者以外の公正・中立な第三者機関が専門的かつ客観的な立場から行った評価」であると定義した。その上で、「第三者評価」についてのガイドラインを公表し、必ず行うべき評価基準と評価機関のあり方を定め、都道府県レベルで、評価機関を認証する仕組みの設置を定めた。第三者評価に対する信頼性を確保するためには、評価機関の独自性を認めつつも、やはり基本となる枠組みが必要と考えたからである。

ここでは、福祉サービスの「第三者評価」とは、あくまで「国のガイドラインの定める枠組みのなかで行われる第三者機関による福祉サービスの評価」をいう。したがって、都道府県レベルの認証を受けないで行う「第三者評価」以外のサービス評価も存在する。たとえば、既に先行してサービス評価を行ってきた組織などが、評価体制や評価基準を堅持しようとする場合がありえよう。これらについては、「サービス評価」に違いはありませんが、国のガイドラインに適合しないわけであるから、国がガイドラインとして定めた「第三者評価」には含まれないという整理ができるかと思われる。もちろん、福祉施設関係者は、「第三者評価」以外のサービス評価を受けてはならないというものではない。ただ、施設が受審しても措置費の弾力化という措置に与れないにすぎない。



◆「サービス評価事業の現状 大阪府下を中心に」

以上のことからもわかるように、サービス評価事業の現状は、極めて多様である。各都道府県のレベルでみても、いまだ推進組織が立ち上がっていないところも存在する。福祉施設関係者の皆さんのなかからも「私どもの県では、正式な評価機関が立ちあがっていないので、受審できません」という意見も聞かれる。こうした都道府県においては、サービス評価に対しても消極的な姿勢を見せる事業者が少なくない。どうやら「受けなくともよいのなら、受けたくない」というのが本音のようである。

さて、先行して積極的にサービス評価の体制づくりに取り組んできた都道府県もある。たとえば、東京都などがあげられるが、東京都の取組については、既に月刊福祉の特集で取り上げているので、ここでは大阪府におけるサービス評価事業の状況を紹介したい。

大阪府では、平成十二年七月から「福祉サービスの第三者評価に関する調査検討会」を設置し、サービス評価の実施体制の確立に取り組んできた。平成十四年度には、自ら評価基準を策定し、評価調査者の養成研修も実施した。そして、大阪府下の福祉施設の幾つかは、こうしたサービス評価を受けていた。

ところが、国が平成十六年に「福祉サービス第三者評価事業に関する指針について」(通知)が公表されたことから、先行してサービス評価事業の確立にとりくんできた自治体においては、サービス評価事業の推進にブレーキがかかってしまった。ガイドラインにもとづき、評価機関を認証する仕組みの構築や評価基準の見直しが必要になったからである。それに伴って、評価調査者の養成もやり直さなければならなくなった。

大阪府では、平成十七年度になってようやく実施体制が整った。すなわち、国のガイドラインにもとづき推進組織を設置し、評価機関の認証を行ったところである。認証された評価機関は、平成十七年度六月現在、高齢者分野に対する評価機関として、二十二法人におよぶ。新基準による「第三者評価」事業の本格実施、すなわち福祉施設が認証された評価機関によるサービス評価を受審し、その評価結果が公表されるのは、これからという状況である。なお、既に幾つかの福祉施設が受審を申し込んでいる評価機関もあり、今年度中にも評価が行われる見込みである。

認証を受けた二十二の評価機関は、高齢者に対する評価基準が先行して策定された関係から、高齢者分野の評価機関である。その内訳は、NPO法人が十三団体、株式会社および有限会社が七団体、社会福祉法人(社会福祉協議会)が一団体、社団法人が一団体、という状況となっている。高齢者の分野では、予想されるところはおよそ出揃った状況である。

さらに、障害者および児童福祉分野については、十月に行われる第二回の認証申請において、新規認証申請を受付ける。また、既に認証を受けている機関は、評価実施分野の変更(追加)の届出をすればよいことになっている。介護と並んで大きなマーケットになると思われる保育の分野において、どのような評価機関が認証の申請をしてくるのか、関心がもたれるところである。

既に認証されている高齢者分野の評価機関についてみると、評価機関の性格は幾つかのグループに、分けられる。社会福祉法人である大阪府社会福祉協議会をはじめ、NPOなど非営利法人、そして株式会社および有限会社である。

大阪府社会福祉協議会は、高齢者分野に限らず、他の分野についても、そして府下全域を対象として「第三者評価」を行うのでしょう。これに対して、NPOなど非営利法人については、組織の性格から、高齢者の分野に限定し、地域密着で「第三者評価」事業を展開すると思われるものも存在する。NPOなど非営利法人の性格も、これまでの組織の活動内容からみると、「まちづくり」「高齢者の暮らし」「生きがいづくり」の分野で活動してきた組織、さらには当事者運動や人権運動に取り組む組織まで様々である。

さらに、株式会社および有限会社による評価機関のなかには、大阪府以外の都道府県からの新たに参入してきたものが幾つか存在する。総合コンサルティングを手がけてきたもの、会計コンサルティングを行ってきた会社、また官庁シンクタンクとして、主として行政計画の分野で実績があるものも認証を受けている。


◆「第三者評価の活用をめぐって」


介護事業を行う事業者において悩ましい問題は、老健局が義務化する方針を掲げている「情報公開の標準化」の取組との兼ね合いであろう。特養を経営する社会福祉法人関係者に少し話を伺うと、第三者評価の受審については、もう少し様子を見たいというのが本音のようである。事業者としてみれば、「受けなければならないもの」を優先せざるをえないと考えるのは当たり前のことである。

「第三者評価」は、「受けなければならないもの」ではない。最低基準をクリアしておけばよいという事業者もいるであろう。これに対して、サービスの質について利用者・家族・地域から信頼されたいという事業者が、差別化戦略として、「第三者評価」を受けたいと考えるのであろう。

さて、第三者評価を活用するねらいには、対外的には、信頼の確保があげられる。それに対して、対内的には、人材育成が期待できる。なかでも、受審までの準備で中心的な役割を担う職員には、職員の協力を取り付けるためには、かなりのリーダーシップが必要になる。また、受審までの取り組みにより多くの職員が参加し、点検や改善に関わることで、職員は現在福祉サービスに求められている「時代標準」に改めて気づくことになることも、期待される効果のひとつといえる。

こうしてみると、「第三者評価」の受審は、職員全員を対象に、あらためて、法人の経営理念を浸透させ、サービスの質を継続的に改善する取組を徹底する格好のチャンスとなろう。監査を受けるのと同じ意識で、事務長クラスが書類上の準備をして、「とりあえず受審してみた」というのでは、職員において評価結果について当事者意識が醸成されない。したがって、評価を受けた後における継続的なサービス改善の取組は、あまり期待できないと考える。

措置費の弾力化の恩恵に与りたくて、「第三者評価」を受けるというのも、受審の動機としてわからなくはないが、「第三者評価」本来の目的からみると、本末転倒しているように思われる。措置費の弾力化というのは、あくまで「おまけ」のご褒美にすぎない。これを受審の目的にすると、本来の継続的なサービス改善の取組のねらいがかすんでしまう。

サービスの質を継続的に改善する取組としてみた場合には、受審までのプロセス、および受審後のプロセスが大切である。評価を受けておけばよいというのでは、監査とあまり変わらない。

なお、職員の意識を変えるツールとしてみた場合には、「ほとんど準備なしに、日ごろの実態をみてもらい、専門的な第三者から評価を受ける」という手法は、ショック療法として有効かもしれない。「できているつもりであったが、cをつけられた。次は何とか名誉挽回したい」と考えてくれたらしめたものである。このように、受審後にポイントを置いて、評価結果に対し、職員総出によるサービスの底上げに取り掛かるというシナリオである。一年間継続的に体制を見直して、あらためて再受審するというのも、改善効果が期待できる手法といえる。

さて、こうした利用目的からみると、少なくとも「なぜ、bなのか」「なぜ、cなのか」という評価結果の根拠を、評価結果と共に記述してくれる評価機関を選びたいものである。それができる評価機関は、専門性が高い評価調査者を養成できている証明でもある。受審した施設の職員にしても、これをみて改善に取り組むことができるから、比較的受審後の改善意欲は上がるものと考えられる。

最後に、第三者評価を活用する事業者の立場からいうと、どの評価機関を選んだらよいのか、悩ましい問題である。これについては、福祉専門職による公正・中立的な評価を求めているのか、経営コンサルティング機能をも期待しているのか、あるいは「市民感覚を大切にしたい」とか「利用者の厳しい評価」に耐えうる組織づくりを目的としているのかによっても、違ってくる。その意味では、都道府県レベルの推進団体において、評価機関の少し詳しいプロフィール、評価の傾向などが、事前に公表されることが望ましいように思われる。もっとも、一番大切な調査評価者の質については、受審した施設などから、口コミ情報を集めるしかなさそうである。